宅建試験過去問題 令和2年10月試験 問9

問9

Aがその所有する甲建物について、Bとの間で、①Aを売主、Bを買主とする売買契約を締結した場合と、②Aを贈与者、Bを受贈者とする負担付贈与契約を締結した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。なお、これらの契約は、令和6年7月1日に締結され、担保責任に関する特約はないものとする。
  1. ①の契約において、Bが手付を交付し、履行期の到来後に代金支払の準備をしてAに履行の催告をした場合、Aは、手付の倍額を現実に提供して契約の解除をすることができる。
  2. ②の契約が書面によらずになされた場合、Aは、甲建物の引渡し及び所有権移転登記の両方が終わるまでは、書面によらないことを理由に契約の解除をすることができる。
  3. ②の契約については、Aは、その負担の限度において、売主と同じく担保責任を負う。
  4. ①の契約については、Bの債務不履行を理由としてAに解除権が発生する場合があるが、②の契約については、Bの負担の不履行を理由としてAに解除権が発生することはない。

正解 3

問題難易度
肢120.6%
肢211.4%
肢353.8%
肢414.2%

解説

  1. 誤り。手付の交付があったときは、相手方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付を放棄して、売主は手付の倍額を現実に提供することで契約解除できます(民法557条1項)。判例では、買主が残代金を用意し、すぐに支払える準備をした上で売主に履行の催告をした場合には、契約の履行に着手したと認めるのが相当であるとしています(最判昭40.12.14)。買主Bが契約の履行に着手した後ですから、売主Aは手付による契約解除をすることができません。
    買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
    建物の買主が終始明渡の要求をなし残代金は即時でも支払いうる状態にあつたこと、および右明渡請求の訴が提起されていたことから、買主においてすでに履行の著手があつたと認めたのは相当である。
    売買契約が締結された際に、Cが解約手付として手付金10万円をAに支払っている場合には、Aはいつでも20万円を現実に提供して売買契約を解除することができる。H29-5-3
    買主が、売主に対して手付金を支払っていた場合には、売主は、自らが売買契約の履行に着手していても、買主が履行に着手するまでは、手付金の倍額を買主に支払うことによって、売買契約を解除することができる。H17-9-4
    同年10月31日までにAが契約の履行に着手した場合には、手付が解約手付の性格を有していても、Bが履行に着手したかどうかにかかわらず、Aは、売買契約を解除できなくなる。H16-4-2
    Aが、売買代金の一部を支払う等売買契約の履行に着手した場合は、Bが履行に着手していないときでも、Aは、本件約定に基づき手付を放棄して売買契約を解除することができない。H12-7-2
    Bが本件約定に基づき売買契約を解除する場合は、Bは、Aに対して、単に口頭で手付の額の倍額を提供することを告げて受領を催告するだけでは足りず、これを現実に提供しなければならない。H12-7-4
  2. 誤り。負担付贈与契約については、それが書面によらないものであったとしても、当事者一方が債務の履行を完了した後は、書面によらないことを理由に契約の全部または一部を取り消すことはできません(最判昭38.9.3)。この事例で言うと、受贈者であるBが負担を履行した場合には、Aは、建物の引渡し及び登記の前であっても、書面によらないことを理由に契約解除できないということなので本肢は誤りです。
    書面によらない贈与では履行が終わった部分を除き、各当事者が撤回できるというのが原則です(民法550条)。しかし、これをそのまま負担付贈与に適用すると、贈与を履行したのに負担部分だけが取り消されたり、負担を履行したのに贈与が取り消されたりといったことが起こり得るからです。
    書面によらない負担付贈与契約に基づき当事者の一方が債務を履行したときは、書面によらない贈与であることを理由にこれを取消すことはできない。
    書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
  3. [正しい]。負担付贈与契約における贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保責任を負います(民法551条2項)。受贈したものについて契約不適合があるときには、履行の追完、代金減額、契約解除、損害賠償請求ができます。
    負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。
    Aが、Bに対し、Aの生活の面倒をみることという負担を課して、甲建物を書面によって贈与した場合、甲建物の契約不適合については、Aはその負担の限度において、売主と同じく担保責任を負う。H21-9-3
  4. 誤り。売買契約では当事者の一方が債務を履行しない場合に契約解除ができます(民法541条、民法542条)。負担付贈与契約には双務契約の規定が準用されるので、売買契約と同じく相手方の債務不履行があれば契約解除することができます(民法553条)。
    負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する。
    売買代金を受領したCが甲土地の引渡しを拒絶する意思を明確に表示したとしても、Bは、Cに対して相当の期間を定めた催告をしなければ、本件契約を解除することができない。R6-4-1
    Bが引渡しを受けた甲自動車が故障を起こしたときは、修理が可能か否かにかかわらず、BはAに対して、修理を請求することなく、本件契約の解除をすることができる。R3⑩-7-3
    債務不履行に対して債権者が相当の期間を定めて履行を催告してその期間内に履行がなされない場合であっても、催告期間が経過した時における債務不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、債権者は契約の解除をすることができない。R2⑩-3-3
    建物の構造耐力上主要な部分の契約不適合については、契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるか否かにかかわらず、Bは契約不適合を理由に売買契約を解除することができる。R1-3-2
    本件建物に存在している契約不適合のために請負契約を締結した目的を達成することができない場合でも、AはBとの契約を一方的に解除することができない。H26-6-4
    売買の目的物である新築建物に、建て替えざるを得ないような重大な瑕疵があって契約の目的を達成できない場合には、買主は売買契約を解除することができる。H23-9-2
    請負契約の目的物たる建物に契約不適合があり、目的物の修補に要する費用が契約代金を超える場合でも、Aは原則として請負契約を解除することができない。H18-6-3
    Aは、一旦履行の提供をしているので、これを継続しなくても、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内にBが履行しないときは土地の売買契約を解除できる。H18-8-2
    Aが、この欠陥の存在を知らないまま契約を締結した場合、Bの担保責任を追及して契約の解除を行うことができるのは、その欠陥が契約及び取引の社会通念に照らして軽微でないときに限られる。H15-10-2
    Aは、この売買契約を解除せず、Bに対し、残代金の支払を請求し続けることができる。H14-8-1
    Bは、この不適合が売買契約及び社会通念に照らして軽微でない場合に限り、この売買契約を解除できる。H14-9-4
したがって正しい記述は[3]です。