宅建試験過去問題 平成23年試験 問9

問9

次の1から4までの記述のうち、民法の規定及び下記判決文によれば、明らかに誤っているものはどれか。
(判決文)
売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合において、当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど、社会通念上、建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには、上記建物の買主がこれに居住していたという利益については、当該買主からの工事施工者等に対する建て替え費用相当額の損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできないと解するのが相当である。
  1. 売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合、買主は、工事施工者に対して損害賠償請求をすることができる。
  2. 売買の目的物である新築建物に、建て替えざるを得ないような重大な瑕疵があって契約の目的を達成できない場合には、買主は売買契約を解除することができる。
  3. 売買の目的物である新築建物に建て替えざるを得ない重大な瑕疵があり、同建物が社会通念上社会経済的な価値を有しないと評価すべきものである場合、当該建物が現実に倒壊していないのであれば、買主からの工事施工者に対する建て替え費用相当額の損害賠償請求において、買主の居住利益が損害額から控除される。
  4. 売買の目的物である新築建物に建て替えざるを得ない重大な瑕疵があり、同建物が社会通念上社会経済的な価値を有しないと評価すべきものである場合、買主が当該建物に居住したまま工事施工者に対して建て替え費用相当額の損害賠償を請求しても、買主の居住利益が損害額から控除されることはない。

正解 3

問題難易度
肢16.2%
肢21.9%
肢377.2%
肢414.7%

解説

判例読み取り問題ですので、当時のまま「瑕疵」としていますが民法改正後の「契約不適合」に読み替えれば十分に成立する問題です。
  1. 正しい。売買目的物に重大な瑕疵があり、契約の目的の達成が困難な場合、買主は売主に対して債務不履行責任に基づく損害賠償請求ができます(民法415条1項)。
    債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
    契約に基づく債務の履行が契約の成立時に不能であったとしても、その不能が債務者の責めに帰することができない事由によるものでない限り、債権者は、履行不能によって生じた損害について、債務不履行による損害の賠償を請求することができる。R2⑫-4-4
    賠償請求を受けたBは、自己の履行遅滞について、帰責事由のないことを主張・立証すれば、免責される。H14-7-1
  2. 正しい。売買目的物に重大な瑕疵があり、契約の目的の達成が困難な場合、買主はその契約を解除できます(民法541条、民法542条)
    当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
    Bが引渡しを受けた甲自動車が故障を起こしたときは、修理が可能か否かにかかわらず、BはAに対して、修理を請求することなく、本件契約の解除をすることができる。R3⑩-7-3
    債務不履行に対して債権者が相当の期間を定めて履行を催告してその期間内に履行がなされない場合であっても、催告期間が経過した時における債務不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、債権者は契約の解除をすることができない。R2⑩-3-3
    ①の契約については、Bの債務不履行を理由としてAに解除権が発生する場合があるが、②の契約については、Bの負担の不履行を理由としてAに解除権が発生することはない。R2⑩-9-4
    建物の構造耐力上主要な部分の契約不適合については、契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるか否かにかかわらず、Bは契約不適合を理由に売買契約を解除することができる。R1-3-2
    本件建物に存在している契約不適合のために請負契約を締結した目的を達成することができない場合でも、AはBとの契約を一方的に解除することができない。H26-6-4
    請負契約の目的物たる建物に契約不適合があり、目的物の修補に要する費用が契約代金を超える場合でも、Aは原則として請負契約を解除することができない。H18-6-3
    Aは、一旦履行の提供をしているので、これを継続しなくても、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内にBが履行しないときは土地の売買契約を解除できる。H18-8-2
    Aが、この欠陥の存在を知らないまま契約を締結した場合、Bの担保責任を追及して契約の解除を行うことができるのは、その欠陥が契約及び取引の社会通念に照らして軽微でないときに限られる。H15-10-2
    Aは、この売買契約を解除せず、Bに対し、残代金の支払を請求し続けることができる。H14-8-1
    Bは、この不適合が売買契約及び社会通念に照らして軽微でない場合に限り、この売買契約を解除できる。H14-9-4
  3. [誤り]。本判決文は、建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど、社会通念上、建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものである場合には、買主からの工事施工者等に対する建て替え費用相当額の損害賠償請求において、買主の居住利益を損害額から控除することはできないとしています。
    よって、「社会通念上、建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきもの」ならば、現に倒壊していなくても、損害額から買主の居住利益を控除することはできません。
  4. 正しい。本判決文では、売買の目的物である新築建物に建て替えざるを得ない重大な不適合があるなど、社会通念上社会経済的な価値を有しないと評価すべきものである場合、買主の居住利益を損害額から控除できないと結論付けています。これは居住したままの請求であっても同じことです。欠陥住宅に住み続けるほど損害賠償額が少なくなるのは酷だからです。
したがって誤っている記述は[3]です。