所有権・共有・占有権・用益物権(全34問中9問目)

No.9

Aは、Aが所有している甲土地をBに売却した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
令和元年試験 問1
  1. 甲土地を何らの権原なく不法占有しているCがいる場合、BがCに対して甲土地の所有権を主張して明渡請求をするには、甲土地の所有権移転登記を備えなければならない。
  2. Bが甲土地の所有権移転登記を備えていない場合には、Aから建物所有目的で甲土地を賃借して甲土地上にD名義の登記ある建物を有するDに対して、Bは自らが甲土地の所有者であることを主張することができない。
  3. Bが甲土地の所有権移転登記を備えないまま甲土地をEに売却した場合、Eは、甲土地の所有権移転登記なくして、Aに対して甲土地の所有権を主張することができる。
  4. Bが甲土地の所有権移転登記を備えた後に甲土地につき取得時効が完成したFは、甲土地の所有権移転登記を備えていなくても、Bに対して甲土地の所有権を主張することができる。

正解 1

問題難易度
肢162.6%
肢27.8%
肢319.2%
肢410.4%

解説

  1. [誤り]。不動産の物権は、登記がなければ第三者に対抗することができません(民法177条)。しかし、不法占有している者はこの第三者に当たりません(最判昭25.12.19)。
    所有権の移転自体はAB間の契約によって効力を生じていますから、Bは所有権の登記がなくても、不法占有者Cに対して所有権に基づく妨害排除請求権を行使し、明渡しを求めることができます。
    不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
    不動産の不法占有者は、民法第一七七条にいう「第三者」には当らない。
    ①も②も不動産に関する物権であり、登記を備えなければ第三者に対抗することができない。H29-10-4
    Aが甲土地をBに売却する前にCにも売却していた場合、Cは所有権移転登記を備えていなくても、Bに対して甲土地の所有権を主張することができる。H28-3-1
    Aが甲土地をFとGとに対して二重に譲渡してFが所有権移転登記を備えた場合に、AG間の売買契約の方がAF間の売買契約よりも先になされたことをGが立証できれば、Gは、登記がなくても、Fに対して自らが所有者であることを主張することができる。H24-6-3
    CもBから甲土地を購入しており、その売買契約書の日付とBA間の売買契約書の日付が同じである場合、登記がなくても、契約締結の時刻が早い方が所有権を主張することができる。H22-4-1
    CはBとの間で売買契約を締結して所有権移転登記をしたが、甲土地の真の所有者はAであって、Bが各種の書類を偽造して自らに登記を移していた場合、Aは所有者であることをCに対して主張できる。H20-2-1
    Aを所有者とする甲土地につき、AがGとの間で10月1日に、Hとの間で10月10日に、それぞれ売買契約を締結した場合、G、H共に登記を備えていないときには、先に売買契約を締結したGがHに対して所有権を主張することができる。H19-3-4
    Cが、AB間の売買の事実を知らずにAから甲地を買い受け、所有権移転登記を得た場合、CはBに対して甲地の所有権を主張することができる。H15-3-1
  2. 正しい。Dは借地上に自己名義で登記された建物を有しており、賃借権の対抗要件を備えています。対抗要件を備えた賃借人に対しては、登記がなければ所有権の移転を対抗することができません。よって、登記を備えていない譲受人Bは、賃借人Dに対して、甲土地の新たな所有者であることを主張することはできません(民法605条3項)。
    第一項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
  3. 正しい。本肢では、AからB、BからEへと所有者が移っていますが、当事者間であれば登記がなくても所有権を主張することができます。判例では、転々譲渡がされたとき、前々主(A)は民法177条の第三者に当たらないとされています(最判昭39.2.13)。
    不動産が甲乙丙と順次譲渡された場合、現在の登記名義人たる甲が丙から直接転移登記手続を求められるにあたつて、甲は民法第一七七条にいう第三者として、丙に対しその物権取得を否認できる関係にはない。
    不動産の所有権がAからB、BからC、CからDと転々譲渡された場合、Aは、Dと対抗関係にある第三者に該当する。R3⑫-6-1
    Aはこの建物をFから買い受け、FからAに対する所有権移転登記がまだ行われていない場合、Bは、Fに対し、この建物の所有権を対抗できる。H16-3-4
  4. 正しい。BはFにとって時効完成前に登場した第三者になります。時効の援用者は時効完成前の第三者に対して、登記なくして所有権を主張することが可能です(最判昭41.11.22)。
    不動産の時効取得者は、取得時効の進行中に原権利者から当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した者に対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができる。
    AがCに対して甲土地を売却し、Cが所有権移転登記を備えた後にBの取得時効が完成した場合には、Bは登記を備えていなくても、甲土地の所有権の時効取得をCに対抗することができる。R5-6-ア
    Bが甲土地の所有権を時効取得した場合、Bは登記を備えなければ、その所有権を時効完成時において所有者であったCに対抗することはできない。R4-10-4
    第三者のなした登記後に時効が完成して不動産の所有権を取得した者は、当該第三者に対して、登記を備えなくても、時効取得をもって対抗することができる。R3⑫-6-3
    Aから甲土地を買い受けたCが所有権の移転登記を備えた後に、Bについて甲土地所有権の取得時効が完成した場合、Bは、Cに対し、登記がなくても甲土地の所有者であることを主張することができる。H27-4-3
    甲土地につき、時効により所有権を取得したBは、時効完成前にAから甲土地を購入して所有権移転登記を備えたCに対して、時効による所有権の取得を主張することができない。H24-6-1
    Cが時効により甲土地の所有権を取得した旨主張している場合、取得時効の進行中にBA間で売買契約及び所有権移転登記がなされ、その後に時効が完成しているときには、Cは登記がなくてもAに対して所有権を主張することができる。H22-4-3
したがって誤っている記述は[1]です。