宅建試験過去問題 平成17年試験 問11

問11

Aは、所有する家屋を囲う塀の設置工事を業者Bに請け負わせたが、Bの工事によりこの塀は瑕疵がある状態となった。Aがその後この塀を含む家屋全部をCに賃貸し、Cが占有使用しているときに、この瑕疵により塀が崩れ、脇に駐車中のD所有の車を破損させた。A、B及びCは、この瑕疵があることを過失なく知らない。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。
  1. Aは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Dに対する損害賠償責任を免れることができる。
  2. Bは、瑕疵を作り出したことに故意又は過失がなければ、Dに対する損害賠償責任を免れることができる。
  3. Cは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Dに対する損害賠償責任を免れることができる。
  4. Dが、車の破損による損害賠償請求権を、損害及び加害者を知った時から3年間行使しなかったときは、この請求権は時効により消滅する。

正解 1

問題難易度
肢148.5%
肢227.2%
肢310.7%
肢413.6%

解説

  1. [誤り]。工作物の設置によって損害が生じた場合、工作物の占有者が損害賠償責任を負うのが基本ですが、その占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたことを立証すれば、所有者に損害賠償責任が移ります。所有者の責任は無過失責任ですので、たとえ注意をしていたとしても被害者に対する責任を免れることはできません。この際、請負人に帰責事由があれば、所有者は被害者に賠償した後に、請負人に求償することができますが、被害者に対する責任を負わないということではありません(民法717条1項民法717条3項)。
    したがって、所有者Aは被害者Dに対する責任を免れることはできません。
    土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
    前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
    Aが甲建物をCから賃借している場合、Aは甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしなかったとしても、Bに対して不法行為責任を負わない。R3⑩-8-1
    Aが甲建物を所有している場合、Aは甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしたとしても、Bに対して不法行為責任を負う。R3⑩-8-2
    Cは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Dに対する損害賠償責任を免れることができる。H17-11-3
    Bの相続人は、Aに対しては損害賠償請求ができるが、甲建物の所有者に対しては、損害賠償請求ができない。H13-10-3
  2. 正しい。BとDは契約関係にありません。この場合、不法行為責任を追及することになります。不法行為による損害賠償請求は故意または過失がなければできないので、Bに故意・過失がない場合、BはDに対する損害賠償責任を免れます(民法709条)。
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
    AがCに雇用されており、AがCの事業の執行につきBに加害行為を行った場合には、CがBに対する損害賠償責任を負うのであって、CはAに対して求償することもできない。H20-11-3
  3. 正しい。占有者Cは、損害発生を防止するために必要な注意をしていれば免責されます(民法717条1項)。
    土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
    Aが甲建物をCから賃借している場合、Aは甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしなかったとしても、Bに対して不法行為責任を負わない。R3⑩-8-1
    Aが甲建物を所有している場合、Aは甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしたとしても、Bに対して不法行為責任を負う。R3⑩-8-2
    Aは、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていれば、Dに対する損害賠償責任を免れることができる。H17-11-1
    Bの相続人は、Aに対しては損害賠償請求ができるが、甲建物の所有者に対しては、損害賠償請求ができない。H13-10-3
  4. 正しい。不法行為に対する損害賠償請求権は、被害者が損害・加害者を知ったときから3年、不法行為のときから20年で時効消滅します(民法724条)。
    不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
    一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
    二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
    本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害又は加害者を知らないときでも、本件事故の時から20年間行使しないときには時効により消滅する。R3⑩-8-3
    人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しない場合、時効によって消滅する。R2⑫-1-4
    信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権は、買主が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効により消滅する。H28-9-1
    信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権は、損害を被っていることを買主が知らない場合でも、売買契約から10年間行使しないときは、時効により消滅する。H28-9-2
    CがBに対して本件建物の契約不適合に関して不法行為責任に基づく損害賠償を請求する場合、当該請求ができる期間は、Cが契約不適合の存在に気付いてから1年以内である。H26-6-3
    不法行為による損害賠償債務の不履行に基づく遅延損害金債権は、当該債権が発生した時から10年間行使しないことにより、時効によって消滅する。H26-8-2
    不法行為による損害賠償の請求権の消滅時効の期間は、権利を行使することができることとなった時から10年である。H19-5-4
    Bが、不法行為による損害と加害者を知った時から1年間、損害賠償請求権を行使しなければ、当該請求権は消滅時効により消滅する。H12-8-3
したがって誤っている記述は[1]です。