売買契約(全31問中18問目)

No.18

売主Aは、買主Bとの間で甲土地の売買契約を締結し、代金の3分の2の支払と引換えに所有権移転登記手続と引渡しを行った。その後、Bが残代金を支払わないので、Aは適法に甲土地の売買契約を解除した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
平成21年試験 問8
  1. Aの解除前に、BがCに甲土地を売却し、BからCに対する所有権移転登記がなされているときは、BのAに対する代金債務につき不履行があることをCが知っていた場合においても、Aは解除に基づく甲土地の所有権をCに対して主張できない。
  2. Bは、甲土地を現状有姿の状態でAに返還し、かつ、移転登記を抹消すれば、引渡しを受けていた間に甲土地を貸駐車場として収益を上げていたときでも、Aに対してその利益を償還すべき義務はない。
  3. Bは、自らの債務不履行で解除されたので、Bの原状回復義務を先に履行しなければならず、Aの受領済み代金返還義務との同時履行の抗弁権を主張することはできない。
  4. Aは、Bが契約解除後遅滞なく原状回復義務を履行すれば、契約締結後原状回復義務履行時までの間に甲土地の価格が下落して損害を被った場合でも、Bに対して損害賠償を請求することはできない。

正解 1

問題難易度
肢147.5%
肢29.6%
肢324.2%
肢418.7%

解説

  1. [正しい]。契約解除前に取引関係に関し利害関係をもった人(解除前の第三者)がいる場合、契約解除に伴う原状回復によってその人の権利を害することはできません(民法545条1項)。この"契約解除の第三者"として保護されるためには、善意・悪意は問われませんが、登記などの対抗要件を得ていなければなりません(最判昭33.6.14)。
    本肢では、AからBに、BからCに甲土地が売却されていて、Aの解除前にCは所有権移転登記をしています。したがって、AがBとの契約を合意解除したとしても、Cの所有権取得を否定することはできません。
    当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
    いわゆる遡及効を有する契約の解除が第三者の権利を害することを得ないものであることは民法五四五条一項但書の明定するところである。合意解約は右にいう契約の解除ではないが、それが契約の時に遡つて効力を有する趣旨であるときは右契約解除の場合と別異に考うべき何らの理由もないから、右合意解約についても第三者の権利を害することを得ないものと解するを相当とする。しかしながら、右いずれの場合においてもその第三者が本件のように不動産の所有権を取得した場合はその所有権について不動産登記の経由されていることを必要とするものであつて、もし右登記を経由していないときは第三者として保護するを得ないものと解すべきである。
    ①と②の契約が解除された場合、①ではBは甲建物を使用収益した利益をAに償還する必要があるのに対し、②では将来に向かって解除の効力が生じるのでAは解除までの期間の賃料をBに返還する必要はない。R3⑫-9-1
    マンションの売買契約がマンション引渡し後に債務不履行を理由に解除された場合、契約は遡及的に消滅するため、売主の代金返還債務と、買主の目的物返還債務は、同時履行の関係に立たない。H27-8-イ
    Bが、AB間の売買契約締結後、この土地をCに転売する契約を締結していた場合、Aは、AB間の売買契約を解除しても、Cのこの土地を取得する権利を害することはできない。H14-8-4
  2. 誤り。契約解除前に目的物を使用して得た収入がある場合には、契約解除に伴う原状回復義務の一環として、それを売主に返還しなければなりません(民法545条3項最判昭51.2.13)。
    第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
    売買契約に基づき目的物の引渡を受けていた買主は、民法五六一条により右契約を解除した場合でも、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還しなければならない。
  3. 誤り。代金返還義務と原状回復義務とは同時履行の関係にあるため、同時履行の抗弁権の主張が可能です(民法533条民法546条)。
    双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
    第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。
    Bは、売買代金が支払い済みだったとしても、甲土地の所有権登記を備えなければ、Cに対して甲土地の引渡しを請求することはできない。R6-4-3
    請負人の報酬債権に対して、注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、請負人に対する相殺後の報酬残債務について、当該残債務の履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。R6-5-3
    Bは、本件代金債務の履行期が過ぎた場合であっても、特段の事情がない限り、甲建物の引渡しに係る履行の提供を受けていないことを理由として、Aに対して代金の支払を拒むことができる。R1-7-4
    Bが報酬を得て売買の媒介を行っているので、CはAから当該自動車の引渡しを受ける前に、100万円をAに支払わなければならない。H29-5-1
    請負契約の目的物に契約不適合がある場合、注文者は、請負人から履行の追完に代わる損害の賠償を受けていなくとも、特別の事情がない限り、報酬全額を支払わなければならない。H29-7-3
    Aは、一旦履行の提供をしているので、Bに対して代金の支払を求める訴えを提起した場合、引換給付判決ではなく、無条件の給付判決がなされる。H18-8-3
    動産売買契約における目的物引渡債務と代金支払債務とは、同時履行の関係に立つ。H15-9-1
  4. 誤り。解除権を行使すると契約はなかったことになりますが、解除権の行使と損害賠償請求は別個の権利ですから、損害が生じている場合には損害賠償の請求をすることができます(民法545条4項)。
    本肢のケースでは、契約締結後、原状回復義務履行時までの間に目的物の価格が下落したとすると、AはBに売ったよりも低い価格で甲土地を売らなくてはなりません。したがって、契約が履行されていたならば得られたはずの利益(履行利益)に相当する額を、Bに対して損害賠償請求することが可能です。
    解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
    Bが契約不適合を理由にAに対して損害賠償請求をすることができるのは、契約不適合を理由に売買契約を解除することができない場合に限られる。R1-3-3
    Aは、この売買契約を解除するとともに、Bに対し、売買契約締結後解除されるまでの土地の値下がりによる損害を理由として、賠償請求できる。H14-8-2
したがって正しい記述は[1]です。