所有権・共有・占有権・用益物権(全32問中3問目)

No.3

不動産に関する物権変動の対抗要件に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
令和3年12月試験 問6
  1. 不動産の所有権がAからB、BからC、CからDと転々譲渡された場合、Aは、Dと対抗関係にある第三者に該当する。
  2. 土地の賃借人として当該土地上にある登記ある建物を所有する者は、当該土地の所有権を新たに取得した者と対抗関係にある第三者に該当する。
  3. 第三者のなした登記後に時効が完成して不動産の所有権を取得した者は、当該第三者に対して、登記を備えなくても、時効取得をもって対抗することができる。
  4. 共同相続財産につき、相続人の一人から相続財産に属する不動産につき所有権の全部の譲渡を受けて移転登記を備えた第三者に対して、他の共同相続人は、自己の持分を登記なくして対抗することができる。

正解 1

問題難易度
肢152.3%
肢213.8%
肢318.7%
肢415.2%

解説

  1. [誤り]。本肢では、AからB、BからC、CからDへと所有者が移っていますが、当事者間であれば登記がなくても所有権を主張することができます。判例では、転々譲渡がされたとき、前々主(B)は民法177条の第三者に当たらないことが示されています(最判昭39.2.13)。同じ理屈で3つ前の所有者に当たるAも対抗関係にある第三者には該当しません。
    不動産が甲乙丙と順次譲渡された場合、現在の登記名義人たる甲が丙から直接転移登記手続を求められるにあたつて、甲は民法第一七七条にいう第三者として、丙に対しその物権取得を否認できる関係にはない。
    Bが甲土地の所有権移転登記を備えないまま甲土地をEに売却した場合、Eは、甲土地の所有権移転登記なくして、Aに対して甲土地の所有権を主張することができる。R1-1-3
    Aはこの建物をFから買い受け、FからAに対する所有権移転登記がまだ行われていない場合、Bは、Fに対し、この建物の所有権を対抗できる。H16-3-4
  2. 正しい。土地の賃借人と土地の新所有者は、どちらも土地の使用につき正当な権限を有するので対抗問題となります。土地の賃借人としてその借地上に登記ある建物を所有する者は、その土地の所有権の得喪につき利害関係を有する第三者です(最判昭49.3.19)。新所有者は所有権の移転登記を備えなければ、借地権者に対して賃料を請求したり、債務不履行による解除をしたりすることができません。
    本件宅地の賃借人としてその賃借地上に登記ある建物を所有する上告人は本件宅地の所有権の得喪につき利害関係を有する第三者である(後略)
  3. 正しい。当該第三者は時効の完成前に登場しています。時効取得者は時効完成前の第三者に対して、登記なくして所有権を主張することが可能です(最判昭41.11.22)。
    不動産の時効取得者は、取得時効の進行中に原権利者から当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した者に対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができる。
    AがCに対して甲土地を売却し、Cが所有権移転登記を備えた後にBの取得時効が完成した場合には、Bは登記を備えていなくても、甲土地の所有権の時効取得をCに対抗することができる。R5-6-ア
    Bが甲土地の所有権を時効取得した場合、Bは登記を備えなければ、その所有権を時効完成時において所有者であったCに対抗することはできない。R4-10-4
    Bが甲土地の所有権移転登記を備えた後に甲土地につき取得時効が完成したFは、甲土地の所有権移転登記を備えていなくても、Bに対して甲土地の所有権を主張することができる。R1-1-4
    Aから甲土地を買い受けたCが所有権の移転登記を備えた後に、Bについて甲土地所有権の取得時効が完成した場合、Bは、Cに対し、登記がなくても甲土地の所有者であることを主張することができる。H27-4-3
    甲土地につき、時効により所有権を取得したBは、時効完成前にAから甲土地を購入して所有権移転登記を備えたCに対して、時効による所有権の取得を主張することができない。H24-6-1
    Cが時効により甲土地の所有権を取得した旨主張している場合、取得時効の進行中にBA間で売買契約及び所有権移転登記がなされ、その後に時効が完成しているときには、Cは登記がなくてもAに対して所有権を主張することができる。H22-4-3
  4. 正しい。第三者に所有権を譲渡した相続人は、他の共同相続人の持分の譲渡に関しては無権利者となります。無権利者から所有権の譲渡を受けた第三取得者も、権利の承継が発生していないのでやはり無権利者です。無権利者は民法177条の第三者に該当しないので、他の共同相続人は、自己の持分のうち法定相続分までは登記がなくとも第三取得者に対抗することができます(最判昭38.2.22)。なお、物権変動の実体を欠く場合には、その部分の登記は無効となります。
    甲乙両名が共同相続した不動産につき乙が勝手に単独所有権取得の登記をし、さらに第三取得者丙が乙から移転登記をうけた場合、甲は丙に対し自己の持分を登記なくして対抗できる。
    甲不動産につき兄と弟が各自2分の1の共有持分で共同相続した後に、兄が弟に断ることなく単独で所有権を相続取得した旨の登記をした場合、弟は、その共同相続の登記をしなければ、共同相続後に甲不動産を兄から取得して所有権移転登記を経た第三者に自己の持分権を対抗できない。H19-6-3
    相続財産である土地につき、遺産分割協議前に、Bが、CとDの同意なくB名義への所有権移転登記をし、これを第三者に譲渡し、所有権移転登記をしても、CとDは、自己の持分を登記なくして、その第三者に対抗できる。H15-12-1
したがって誤っている記述は[1]です。