不法行為・事務管理(全16問中8問目)

No.8

Aに雇用されているBが、勤務中にA所有の乗用車を運転し、営業活動のため得意先に向っている途中で交通事故を起こし、歩いていたCに危害を加えた場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
平成24年試験 問9
  1. BのCに対する損害賠償義務が消滅時効にかかったとしても、AのCに対する損害賠償義務が当然に消滅するものではない。
  2. Cが即死であった場合には、Cには事故による精神的な損害が発生する余地がないので、AはCの相続人に対して慰謝料についての損害賠償責任を負わない。
  3. Aの使用者責任が認められてCに対して損害を賠償した場合には、AはBに対して求償することができるので、Bに資力があれば、最終的にはAはCに対して賠償した損害額の全額を常にBから回収することができる。
  4. Cが幼児である場合には、被害者側に過失があるときでも過失相殺が考慮されないので、AはCに発生した損害の全額を賠償しなければならない。

正解 1

問題難易度
肢179.0%
肢23.8%
肢310.1%
肢47.1%

解説

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  1. [正しい]。Bの不法行為責任とAの使用者責任は不真正連帯債務です(大判昭12.6.30)。不真正連帯債務では、連帯債務者の1人に対して生じた事由は、弁済、相殺を除いて他の債務者に対して効力が生じませんから、Bの損害賠償義務が消滅時効にかかった場合でも、Aの損害賠償義務は当然には消滅しません(民法441条)。
    ※不真正連帯債務は、①更改と混同が相対効となること、②求償を行うことができるのは自己の負担分を超えて債務を弁済した場合に限られることが、通常の連帯債務と異なります。
    使用者・代理監督者の責任と被用者の責任との関係は,不真正連帯債務である
    第四百三十八条、第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。
  2. 誤り。被害者が即死の場合であっても、被害者が受けた精神的な苦痛に対する損害賠償請求権が発生します(民法710条)。慰謝料請求権は相続することができるので、BはCの相続人に対して慰謝料の損害賠償責任を負います(最判昭42.11.1)。
    他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
    不法行為による慰藉料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、相続の対象となる。
    Aの加害行為が名誉毀損で、Bが法人であった場合、法人であるBには精神的損害は発生しないとしても、金銭評価が可能な無形の損害が発生した場合には、BはAに対して損害賠償請求をすることができる。H20-11-4
    不法行為によって名誉を毀損された者の慰謝料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなかった場合でも、相続の対象となる。H19-5-2
  3. 誤り。Aは負担した損害賠償額をBに対し求償することができますが、使用者が被用者に対して求償できるのは信義則上相当と認められる額(4分の1程度が限度)に限られるため、全額を回収できるとは限りません(民法715条3項最判昭51.7.8)。
    前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
    (略)使用者は、信義則上、右損害のうち四分の一を限度として、被用者に対し、賠償及び求償を請求しうるにすぎない。
    Cは、使用者責任に基づき、Bに対して本件事故から生じた損害を賠償した場合、Dに対して求償することができるが、その範囲が信義則上相当と認められる限度に制限される場合がある。H28-7-ウ
    Aは、Dに対して事故によって受けたDの損害の全額を賠償した。この場合、Aは、被用者であるBに対して求償権を行使することはできない。H25-9-2
    Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aが使用者としての損害賠償責任を負担した場合、A自身は不法行為を行っていない以上、Aは負担した損害額の2分の1をBに対して求償できる。H18-11-4
    Aは、Eに対し損害賠償債務を負担したことに基づき損害を被った場合は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、Bに対し、損害の賠償又は求償の請求をすることができる。H14-11-3
  4. 誤り。被害者Cが幼児であっても、被害者の監督義務者等(例えばCの親など)に監督上の過失があるときには、損害賠償額の決定の際に過失相殺が考慮されます(民法722条2項最判昭34.11.26)。よって、Aが常に損害の全額について賠償責任を負うわけではありません。
    被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
    幼児の生命を害された慰藉料を請求する父母の一方に、その事故の発生につき監督上の過失があるときは、父母の双方に民法第七二二条第二項の適用があるものと解すべきである。
したがって正しい記述は[1]です。