意思表示(全13問中3問目)

No.3

AがBに甲土地を売却した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
平成30年試験 問1
  1. 甲土地につき売買代金の支払と登記の移転がなされた後、第三者の詐欺を理由に売買契約が取り消された場合、原状回復のため、BはAに登記を移転する義務を、AはBに代金を返還する義務を負い、各義務は同時履行の関係となる。
  2. Aが甲土地を売却した意思表示に錯誤があった場合、Aの錯誤が重大な過失によるものではなかったとしても、BはAの錯誤を理由として取消しをすることはできない。
  3. AB間の売買契約が仮装譲渡であり、その後BがCに甲土地を転売した場合、Cが仮装譲渡の事実を知らなければ、Aは、Cに虚偽表示による無効を対抗することができない。
  4. Aが第三者の詐欺によってBに甲土地を売却し、その後BがDに甲土地を転売した場合、Bが第三者の詐欺の事実につき過失なく知らなかったとしても、Dが第三者の詐欺の事実を知っていれば、Aは詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消すことができる。

正解 4

問題難易度
肢17.3%
肢221.3%
肢39.4%
肢462.0%

解説

  1. 正しい。契約が解除された場合、その契約は当初からなかったこととなり、当事者双方は契約前の状態に戻すための原状回復義務を負います(民法545条)。この原状回復義務には同時履行の規定が適用されます(民法546条)。詐欺を理由に契約が取り消された場合も、解除と同じく原状回復義務は同時履行の関係にあるため、買主が行う所有権移転登記の抹消と売主が行う代金返還は同時履行の関係となります(最判昭47.9.7)。本肢のような第三者による詐欺でも同じです。
    売買契約が詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務は、同時履行の関係にあると解するのが相当である。
    BからCへの売却後、AがAB間の契約を適法に解除して所有権を取り戻した場合、Aが解除を理由にして所有権登記をBから回復する前に、その解除につき善意のCがBから所有権移転登記を受けたときは、Cは甲地の所有権をAに対抗できる。H13-5-2
  2. 正しい。無効は誰でも主張できるのに対して、取消しは瑕疵のある意思表示をした者又はその代理人・承継者しか主張することが許されません。錯誤があった場合は取消しをすることができますが、表意者のAが取消しをすることができる状況であっても、その相手方であるBが取消しを主張することはできません(民法120条2項)。
    錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。
  3. 正しい。虚偽表示による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができません(民法94条)。よって、Cが仮装譲渡の事実を知らない(善意の)ときは、Aは、Cに虚偽表示による無効を対抗することができません。
    相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
    2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
    善意のCがBから甲土地を買い受けた場合、Cがいまだ登記を備えていなくても、AはAB間売買契約の無効をCに主張することができない。H27-2-1
    Cは債権者の追及を逃れるために売買契約の実態はないのに登記だけBに移し、Bがそれに乗じてAとの間で売買契約を締結した場合には、CB間の売買契約が存在しない以上、Aは所有権を主張することができない。H22-4-4
    DはBとの間で売買契約を締結したが、AB間の所有権移転登記はAとBが通じてした仮装の売買契約に基づくものであった場合、DがAB間の売買契約が仮装であることを知らず、知らないことに無過失であっても、Dが所有権移転登記を備えていなければ、Aは所有者であることをDに対して主張できる。H20-2-2
  4. [誤り]。第三者の詐欺による意思表示は、意思表示の相手方が詐欺の事実を知っていた、または知ることができた場合には取り消すことができます(民法96条2項)。
    本肢の場合、Bは第三者の詐欺の事実を知らずにAから甲土地を購入したので、Aは詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消すことができません。これは、Bから甲土地の転売を受けた転得者Dの善意・悪意に関係ありません。
    相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
    Bは、第三者であるCから甲土地がリゾート開発される地域内になるとだまされて売買契約を締結した場合、AがCによる詐欺の事実を知っていたとしても、Bは本件売買契約を詐欺を理由に取り消すことはできない。H23-1-2
    Aが、Cの詐欺によってBとの間で売買契約を締結した場合、Cの詐欺をBが知っているか否かにかかわらず、Aは売買契約を取り消すことはできない。H16-1-3
    Aが、Cの強迫によってBとの間で売買契約を締結した場合、Cの強迫をBが知らなければ、Aは売買契約を取り消すことができない。H16-1-4
    Aは、Bが詐欺をしたことを、Cが知り又は知ることができたときでないと、売買契約の取消しをすることができない。H14-1-1
したがって誤っている記述は[4]です。