売買契約(全31問中6問目)
No.6
AがBに対してA所有の甲建物を令和6年7月1日に①売却した場合と②賃貸した場合についての次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。令和3年12月試験 問9
- ①と②の契約が解除された場合、①ではBは甲建物を使用収益した利益をAに償還する必要があるのに対し、②では将来に向かって解除の効力が生じるのでAは解除までの期間の賃料をBに返還する必要はない。
- ①ではBはAの承諾を得ずにCに甲建物を賃貸することができ、②ではBはAの承諾を得なければ甲建物をCに転貸することはできない。
- 甲建物をDが不法占拠している場合、①ではBは甲建物の所有権移転登記を備えていなければ所有権をDに対抗できず、②ではBは甲建物につき賃借権の登記を備えていれば賃借権をDに対抗することができる。
- ①と②の契約締結後、甲建物の引渡し前に、甲建物がEの放火によって全焼した場合、①ではBはAに対する売買代金の支払を拒むことができ、②ではBとAとの間の賃貸借契約は終了する。
広告
正解 3
問題難易度
肢125.6%
肢211.8%
肢352.1%
肢410.5%
肢211.8%
肢352.1%
肢410.5%
分野
科目:1 - 権利関係細目:8 - 売買契約
解説
- 正しい。契約が解除された場合、契約は最初からなかったことになり、各当事者には契約前の状態に戻す義務(原状回復義務)が生じるのが原則です(民法545条1項)。
①売買契約はこの原則に従い、売主は代金に利息を付けて返還し、買主は売買目的物及び所有中に売買目的物から生じた不当利得や果実を返還することになります。
一方、②賃貸借契約の解除は将来に向かってのみ効果を生じるので、貸主は賃料を返還する必要はありません(民法620条)。当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
マンションの売買契約がマンション引渡し後に債務不履行を理由に解除された場合、契約は遡及的に消滅するため、売主の代金返還債務と、買主の目的物返還債務は、同時履行の関係に立たない。(H27-8-イ)Aの解除前に、BがCに甲土地を売却し、BからCに対する所有権移転登記がなされているときは、BのAに対する代金債務につき不履行があることをCが知っていた場合においても、Aは解除に基づく甲土地の所有権をCに対して主張できない。(H21-8-1)Bが、AB間の売買契約締結後、この土地をCに転売する契約を締結していた場合、Aは、AB間の売買契約を解除しても、Cのこの土地を取得する権利を害することはできない。(H14-8-4) - 正しい。①売買契約をすれば甲建物の所有権を得ます。自分の所有物をどうしようと自由ですから、甲建物を貸すのに前所有者の承諾は不要です。
一方、②賃貸借契約の借主が転貸をする際には、貸主の承諾が必要です(民法612条1項)。賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
賃借人が賃貸借契約の目的物を第三者に転貸する場合、賃貸人の承諾は不要である。(R6-9-4)Bは、①ではAの承諾がなければ甲土地を適法に転貸することはできないが、②ではAの承諾がなくても甲土地を適法に転貸することができる。(R4-6-2)甲地上のA所有の建物が登記されている場合には、AがCと当該建物を譲渡する旨の合意をすれば、Bの承諾の有無にかかわらず、CはBに対して甲地の借地権を主張できる。(H17-13-1)AB間の借地契約が専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を20年とする借地契約である場合には、AはBの承諾の有無にかかわらず、借地権をCに対して譲渡することができ、CはBに対して甲地の借地権を主張できる。(H17-13-4)Bが、乙建物をEに譲渡しようとする場合において、Eが甲地の賃借権を取得してもAに不利となるおそれがないにもかかわらず、Aがその賃借権の譲渡を承諾しないときは、Bは、裁判所にAの承諾に代わる許可をするよう申し立てることができる。(H15-13-3) - [誤り]。①における所有権移転登記、②における賃借権の登記はともに「民法177条の第三者」に対抗するための要件です。不法占拠者は民法177条に定める第三者に該当しないので、登記がなくても権利の取得を対抗することができます(最判昭25.12.19)。
不動産の不法占有者は、民法第一七七条にいう「第三者」には当らない。
- 正しい。①売買契約の締結後、引渡しまでに、売主買主いずれにも帰責性がない事由で売買目的物が滅失した場合、売主の引渡し債務は消滅し、買主は売主への代金支払いを拒むことができます(民法536条1項)。Eの放火による滅失はA・Bどちらにも責任がないので、買主Bは売主Aへの代金支払いを拒むことができます。
②賃貸借契約において、賃借物の全部が滅失するなどで使用収益ができない状態になってしまった場合には、賃貸借契約は当然に終了することになっています(民法616条の2)。当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。
広告
広告