債権総則(全37問中1問目)

No.1

履行遅滞に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
令和6年試験 問5
  1. 不法行為の加害者は、不法行為に基づく損害賠償債務について、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
  2. 善意の受益者は、その不当利得返還債務について、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
  3. 請負人の報酬債権に対して、注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、請負人に対する相殺後の報酬残債務について、当該残債務の履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
  4. 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った後に履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

正解 2

問題難易度
肢112.4%
肢242.4%
肢322.8%
肢422.4%

解説

  1. 誤り。請求の時からではありません。不法行為に基づく損害賠償債務は、何ら催告を要さず、損害の発生と同時に履行遅滞となります(最判昭37.9.4)。
    不法行為に基づく損害賠償債務は、なんらの催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥るものと解すべきである。
  2. [正しい]。不当利得は、法律上の原因がなく受けた給付で、返還する義務を負います。善意の受益者に係る不当利得返還請求債務は、履行期の定めのない債務なので、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負います(大判昭2.12.26)。一方、悪意の受益者に係る不当利得返還債務は、受益の時から遅滞の責任を負うという違いがあります(民法704条)。
    善意の不当利得者の返還義務は期限の定めのない債務であるから、債務者は催告により遅滞に陥る。
    悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
  3. 誤り。請求を受けた時からではなく、相殺の意思表示をした時からです。報酬債権と当該請負の契約不適合責任に基づく損害賠償債権は同時履行の関係にあります(民法533条)。請負人が損害賠償債権を自働債権として報酬債権を相殺する意思を示した時点で、同時履行の抗弁権は消滅し、注文者には残報酬債務の履行義務が生じます。したがって、残報酬債務は、請負人が相殺の意思表示をした時から履行遅滞となります(最判平9.7.15)。
    双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
    請負人の報酬債権に対し注文者がこれと同時履行の関係にある瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。
    Bは、売買代金が支払い済みだったとしても、甲土地の所有権登記を備えなければ、Cに対して甲土地の引渡しを請求することはできない。R6-4-3
    Bは、本件代金債務の履行期が過ぎた場合であっても、特段の事情がない限り、甲建物の引渡しに係る履行の提供を受けていないことを理由として、Aに対して代金の支払を拒むことができる。R1-7-4
    Bが報酬を得て売買の媒介を行っているので、CはAから当該自動車の引渡しを受ける前に、100万円をAに支払わなければならない。H29-5-1
    請負契約の目的物に契約不適合がある場合、注文者は、請負人から履行の追完に代わる損害の賠償を受けていなくとも、特別の事情がない限り、報酬全額を支払わなければならない。H29-7-3
    Bは、自らの債務不履行で解除されたので、Bの原状回復義務を先に履行しなければならず、Aの受領済み代金返還義務との同時履行の抗弁権を主張することはできない。H21-8-3
    Aは、一旦履行の提供をしているので、Bに対して代金の支払を求める訴えを提起した場合、引換給付判決ではなく、無条件の給付判決がなされる。H18-8-3
    動産売買契約における目的物引渡債務と代金支払債務とは、同時履行の関係に立つ。H15-9-1
  4. 誤り。債務の履行期および履行遅滞の責任が発生する時点は、債務の履行期限によって次の3つに分かれます。
    ①債務の履行に確定期限があるとき
    期限の到来した時
    ②債務の履行に不確定期限があるとき
    期限の到来後に請求を受けた時、期限到来を知った時のいずれか早い方
    ③債務の履行に期限の定めがないとき
    履行の請求を受けた時
    上記のとおり、債務の履行について不確定期限があるときは、履行の請求を受けた時、又は期限が到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負います(民法412条2項)。
    【参考】
    不確定期限の債務とは「父が死んだら▲▲する」とか「次に総理大臣が変わったら□□する」などのように、到来するのは確実ですがその時期が未確定の債務です。
    債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
    債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限が到来したことを知らなくても、期限到来後に履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。R2⑫-4-1
したがって正しい記述は[2]です。