8種制限の契約不適合責任の特約制限
初学者さん
(No.1)
売主の宅建業者が、一般人に、住宅建築用の土地として更地を販売したとします。
販売条件として、
▪地中の埋設物の有無は不明
▪仮に埋設物があったとしても、埋設物の有無は不明として合意しているので契約不適合責任は負わない。
という特約のある契約を結んだとします。
これは、契約不適合責任の特約制限に抵触する特約であり、無効な条項になるのでしょうか?
それとも、埋設物の有無は不明と合意しており、仮に埋設物があったとしても契約の内容品質に適合しているので有効な条項となるのでしょうか。
実務演習のようですが、実際に起こり得る事例かと思います。
法適用の論理的な説明がわかればお願いします。
2023.02.22 23:53
れふぃさん
(No.2)
とりあえず解釈運用(R4)には似たような事例は掲載ないです。
うーん、結局当初の契約内容次第になりそうですよねぇ。
例えば宅地売買であれば「通常の上物を乗せることができる土地」という事が大前提の合意内容になると思います。であれば、土地の埋設物の土壌調査は業者サイドの義務内容になるような。
駐車場利用であるとか単なる雑地売買であればそこまでの調査義務はないような。
ただ、業法40(素人買主に不利な特約は無効)の規定があるので、少なくとも宅地売買なのであれば民法572の免責特約は無効と考えることができるような気がします。
本地として上物を乗っけることができる土壌かどうかってまさに民法上の「種類品質」の問題ですよね。その契約不適合(宅地買ったのに建物を建てられない)が生じたのに担保責任を負わないって特約なので、業法40により無効ってなり得るな気がします。
先ほどの調査義務の話としても民法上の信義則、宅建業法としても31条の信義則があるので「土壌調査できるのにやらない」が果たして妥当と言えるのか疑問に思います。
ちなみに最高裁判例ではないですが、調べてみるとこういう話がありました。
なんとなくですが元ネタくさいですね。埋設物の除去費用について損害賠償が認められています(埋蔵物の免責特約が認められていない)。ただ、旧法下の事例のようで、隠れた瑕疵とかって用語が出てる判例ですね。
以下、引用です(RETIO No.126 2022.夏)。
売買契約後に判明した地中埋設物等について、買主の倉庫建築に支障となった除去費用を除き売主の瑕疵担保責任が否定された事例(東京高裁R2.9.24)
・特約→売主の瑕疵担保責任負担期間:本件土地引渡より2年間。
→本件土地において、旧鉄塔基礎が存していた場合は引渡し時までに売主が撤去するが、旧建物(寮など)の基礎等が存していた場合に売主は撤去を行わない。
・調査→本件土地は賃貸をしていた経緯があり、契約終了後に賃借人が調査会社に依頼した土壌汚染調査報告書では、「土壌汚染が存在する恐れは小さい」とされている。
・判決の要旨
(本件埋設物について)
・・・しかし、YはXに、本件土地に住宅を建築して分譲する予定があることを説明していたこと、本件埋設物発覚後にYがこの撤去費用について応分の負担する旨回答したこと等を考えると、当当事者の合理的解釈として想定される埋設物の量には自ずと限度があり、少なくとも本件土地上に建物等を建築することについて、支障とならない程度であることが黙示に前提とされていたとみるのが相当である。本件埋設物は、コンクリートガラ等合計約84トン並びに枕木やタイヤ等合計約21㎥にもおよび、これがXの倉庫建設のための基礎工事の支障となったものであるから、少なくとも、本件埋設物ほどの量を契約当事者がその可能性を想定していなかったものとして、隠れた瑕疵に当たるというべきである。
(Yの表明保証義務違反について)
本件売買契約書には、旧鉄塔基礎、水道埋設管及びガス埋設管、木柵、旧建物の基礎等については不明との記載がされており、むしろ、本件土地には埋設物が存在する可能性があることが指摘されているというべきであって、Yが、本件埋設物が存在しないことを表明し保証したとは認められない。
(Yの説明義務違反について)
YはXに対し、売買契約時に、本件土壌汚染の地歴報告書や調査報告書を交付しているところ、本件調査報告書による調査が売買するに当たって通常行うべき程度に欠けるほど不十分なものであったと認めるに足りぬ証拠はなく、地中埋設物についても、その可能性に言及した上で、その処理の分担を定めており、本件売買契約の付随的義務である説明義務違反があったとは認められない。
(Xの損害額について)
Xは、本件埋設物の発見後、294万円を支出してこれを除去しており、これは本件埋設物の瑕疵による損害であると認められる。
2023.02.23 11:35
初学者さん
(No.3)
判例が豊富の事例のようですね。
さらに8種制限(契約不適合責任の免責の制限)に関する突っ込んだ質問なのですが、
土地付き中古住宅を不動産業者から一般人が購入したとします。居住用です。
○契約書に雨漏り「有り」として契約した場合に、雨漏りに関して契約不適合責任の免責の記載が
あったとしても、雨漏り有が目的物の品質なので、契約不適合にならず、免責を盾に補修等の請求に
対し拒否できる。
○契約書に雨漏り「無し」として契約した場合に、雨漏りに関して契約不適合責任の免責の記載が
あったとしたら、雨漏り無が目的物の品質なので、契約不適合になり、8種制限に反する事になり、
免責を盾に補修等の請求に対し拒否できない。
ここまではいいかと思いますが、
雨漏り「不明」として合意して契約した場合に、実際に雨漏りがあった場合は、実際の居住に支障があれば、契約不適合になるのでしょうか。
「不明」とする合意と、契約の品質の特定について、民法の契約不適合を勉強してもピンと来ません。
試験範囲を逸脱しているかもしれませんが、わかれば教えてください。
2023.02.25 11:09
れふぃさん
(No.4)
>雨漏り「不明」として合意して契約した場合に、実際に雨漏りがあった場合は、実際の居住に支障があれば、契約不適合になるのでしょうか。
中古の取り扱いについて、民法の債権大改正ってやつで記憶が確かならルールが変わった部分なのでそのものズバリの最高裁判所の判例は多分存在していないと思います(あったらすみませんw)。
現行法下として「合意主義」の採用となったので、旧法下より理解しやすいように思います。
民483だとか民566などいろんな所で「契約・取引上の社会通念などに適合しているか」を重視する取り扱いです。合意はあったのか、契約はどうなのか、ふつーはどうなのか、など考える必要があると思います。
例えば、中古自動車を購入すると言ったときに「動かない車」を明示的にしろ黙示的にしろ望んでいるわけありませんよね(=社会通念)。数回で走らなくなるなんて流石に普通は想定していないはずなんで、普通は品質等の契約不適合だと考える方向に話が進むでしょう。
ただ、それも値段なんかとの兼ね合いもあるでしょうから一律にも言えないと思います(国家試験などであれば考えなくてすむのですが)。
つまり、例えば超格安1万円で「壊れているかもしれない事を前提とした取引」なのであれば(現状引渡が明示的に合意内容になっている)、その後エンジンがすぐに動かなくなっても、買主としては「やっぱ1万円の車なんてだめだな失敗したな」となるはずで契約不適合責任にはなりません。
雨水絡みの判例も沢山あって(しかも旧法下)、例えばREITO掲載のものでもこんな感じです。全て掲載されているので一読すると理解が深まると思いますよ。
東京地判 H31.4.24 RETIO118-110
東京地判 R1.10.29 RETIO123-98
東京地判 R1.12.26 RETIO121-138
東京地判 R2.2.26 RETIO122-160
以下、簡単に引用すると。
H31.4.24判であれば、
>(隠れた瑕疵に当たるか否かについて)平成28年9月頃の大雨の際に、当該住戸で雨漏りが発生しており、雨露をしのぐという建物の基本的な機能に鑑みれば、これは「瑕疵」に当たることは明らかである。また、室内の雨漏りは、建物外観から容易に判明し得ず、本契約締結時までにXがこの雨漏りを認識していたとは推認できないため、「隠れた瑕疵」にあたり、Yは損害賠償義務を負う。
R1.10.29判であれば、
>(隠れた瑕疵にあたるか)「隠れた」とは買主において瑕疵の存在を知らず、かつ容易に知り得なかったことを指す。本物件建物のような築27年の中古マンションにおいては、壁面等に多少の亀裂があることは当然で、このこと自体は瑕疵に当たらないが、雨漏りを生じさせるほどの亀裂の存在は瑕疵と言える。
という判旨から、大前提として雨水の侵入については重要視しなければいけない部分だと思います(だからこそ品確法で新築住宅に特別な保護を与えている)。
R2.2.26判なんかでは、
>AがY1に提出した物件状況等報告書には「平成27年4月頃、リビングで雨漏りがあったが修理済」の旨が記載されていたが、Y1はXに提出した物件状況等報告書において「雨漏りを発見していない」「漏水等の被害:無」「専有部分の修繕の履歴:無」と記載した。
という状況下で買主サイドの取消権・解除権までは認めませんでしたが(ただし旧法下)、
>(Y1の説明義務違反による不法行為責任)Yは、雨漏り歴を知りながら故意に隠蔽したもので、信義誠実の原則に反する。また、Y1は、その原因が単に失念したに過ぎない旨弁解に終始しており、非常に悪質で宅建業者としての信頼を著しく損なう行為である。Xは、Y1の虚偽説明により、一部誤った情報を基に購入の判断を余儀なくされる不利益を被ったものであり、その精神的苦痛に対する慰謝料は40万円を相当と認める。
とされ、「無し」の記載がそもそも売主サイドの隠蔽と認定されて信義則違反ではねられてます。
(続く)
2023.02.26 08:49
れふぃさん
(No.5)
明示的ではなく黙示的であれ、雨漏りのする家なんて普通は望んでいるわけないんです。
そもそも中古物件を管理しているはずの売主業者サイドが「不明」なんて状況、普通に考えてあり得ないんですよね。善意なのか悪意なのかどっちかでしょ、定期的に草むしりや清掃なんかを業務として行っているはずなので。
悪意であったことの立証がなされて認定に至ったのがR2判って感じでしょうが、そういったリスクは生じちゃうのでは?って思います(不適合になり得る、ならなくても信義則違反で賠償請求の対象になり得る)。
ただ、前述のエンジン事例と同様に、当初の契約が「雨漏り不明?いやそれでもいいからその格安物件を売ってくれ」というような状況なのであれば契約不適合の問題は生じないようにも思えます。
実際問題、廃墟DIYなどの動画で1万円で家を購入した!これから直すぜ!みたいなものもありますしね。そんなケースであれば「不明」でも合意はおそらく取れていますよね。雨漏りのリスクを承知したうえで格安物件を購入しているので、仮に訴訟になってもその辺りの事情は加味されると思います。
しっかり説明責任を果たしたうえで、値段との兼ね合いでそれでも構わない!という状況なのであれば販売後の訴訟リスクは回避できるのではないかなーと(不適合にはならない)。
以上、確定的な最高裁なり下級審なりの判例が見当たらなかったので私見でした。
もっと探せばあるかもしれないので、その点留意頂ければと思います。
2023.02.26 08:55
初学者さん
(No.6)
詳細な判例紹介や解説ありがとうございます。
雨漏り一つとっても、宅建業法のみならず、民法の学習ができて勉強になりました。
宅建の勉強をしていると、とかく参考書記載のエッセンスの暗記に走りそうですが、今回のように実務や実態に即して学習すると、楽しくもあり、理解が深まります。
まだまだ先の試験なので、じっくり学習したいですね。
2023.03.01 23:35
れふぃさん
(No.7)
あぁ、突っ込んだ実務的なご質問だったので合格者の方がレポートか何か課題があったのかと(;´∀`)
受験生なのであれば下級審の判例研究なんてNG中のNGです。それは合格後、実務で必要になったのならやるような話です。
全ての法律系国家試験と言って過言ではないと思いますが、条文・最高裁判所の判例が出典です。
仮にこういう条件だったらとか、もしこういう条件だったらとか、仮定の事例はあまり検討しない方が良いと思いますよ。なぜなら明確な元ネタが存在しない以上、出題可能性はゼロだからです。国家試験はあくまでも試験なので明確な元ネタがないと「出題ができない」という関係にあります。
一応、解釈運用っていう国交省告示が元ネタになる場合もあるんですが、満点阻止の設問だなっと割り切って過去問既出程度にしておくべきかと思います。
事例式での学習は私もありありのありだと思うんですが、それも条文や最高裁判例の範囲内でやるべき話になります。
予備校講師が解説した事例であるとか基本テキストに掲載のある事例をしっかり学習したうえで、過去問をベースに「この条文の事例はこういう状況だ」と学習する優先順位がオススメです。例えば法定地上権といえばどういう状況か?というのをテキストや過去問を通して事例式っぽく勉強するみたいな。
「もしこうならどうなるんだ?」とかっていう疑問が浮かぶ気持ちはわかりますが、仮定の話は極力避けた方が良いです。その辺り白黒つけたくなる気持ちもわかるのですが、「最高裁まで争った結論じゃないと受験勉強としての結論は出ないし、そもそも試験範囲ではないよ」ってのが答えになっちゃいます。
ちなみに前述の私の投稿は全て地裁判決をベースにしているので、ほぼ全てが試験外だと思います(;´∀`)
2023.03.02 08:00
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