宅建試験過去問題 平成15年試験 問5

問5

Aは、B所有の建物に抵当権を設定し、その旨の登記をした。Bは、その抵当権設定登記後に、この建物をCに賃貸した。Cは、この契約時に、賃料の6カ月分相当額の300万円の敷金を預託した。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。
  1. Bが、BのCに対する将来にわたる賃料債権を第三者に譲渡し、対抗要件を備えた後は、Cが当該第三者に弁済する前であっても、Aは、物上代位権を行使して当該賃料債権を差し押さえることはできない。
  2. Bの一般債権者であるDが、BのCに対する賃料債権を差し押さえ、その命令がCに送達された後は、Cが弁済する前であっても、Aは、物上代位権を行使して当該賃料債権を差し押さえることはできない。
  3. Aが物上代位権を行使して、BのCに対する賃料債権を差し押さえた後は、Cは、Aの抵当権設定登記前からBに対して有している弁済期の到来している貸付金債権と当該賃料債権とを相殺することはできない。
  4. Aが物上代位権を行使して、BのCに対する賃料債権を差し押さえた後、賃貸借契約が終了し建物を明け渡した場合、Aは、当該賃料債権について敷金が充当される限度において物上代位権を行使することはできない。

正解 4

問題難易度
肢112.8%
肢218.3%
肢324.2%
肢444.7%

解説

  1. 誤り。Aは抵当権を登記しているので、賃料債権に物上代位することができます(民法304条1項民法372条)。物上代位の規定では、払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならないとしていますが、判例では対抗要件を備えた賃料債権の譲渡があったとしても、「払渡し又は引渡し」に当たらず、差押え可能であるとしています(最判平10.1.30)。
    抵当権は対抗力を具備するためには登記が必要であり、登記がなされている以上は、代位物について抽象的に抵当権の効力が及んでいることが公示されており、債権を譲り受ける前に抵当権の登記を確認すれば物上代位の可能性は確認できるためです。
    先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
    第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。
    抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
    当該建物に火災保険が付されていて、当該建物が火災によって焼失してしまった場合、Bの抵当権は、その火災保険契約に基づく損害保険金請求権に対しても行使することができる。H22-5-2
    抵当権者は、抵当権を設定している建物が火災により焼失した場合、当該建物に火災保険が付されていれば、火災保険金に物上代位することができる。H17-5-3
    Bがその建物内のB所有の動産をDに売却したときは、Aは、その代金債権に対して、払渡し前に差押えをしないで、先取特権を行使することができる。H12-3-3
  2. 誤り。一般債権者の差押え、仮差押え、倒産手続開始決定は、民法304条の「払渡し又は引渡し」に含まれないとされています(最判平10.3.26)。この場合の優劣は、差押え命令と抵当権の先後によって決まるので、抵当権を備えているAは賃料債権に物上代位することが可能です。
    債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合には、両者の優劣は、一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決すべきである。
  3. 誤り。抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできないとされています(最判平13.3.13)。しかし、本肢は抵当権設定の前に取得した債権なので相殺できます。
    抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者に対抗することはできない。
    甲建物の抵当権者Dが、物上代位権を行使してAのBに対する賃料債権を差し押さえた場合、Bは、Dの抵当権設定登記の後に取得したAに対する債権と、差し押さえにかかる賃料債務とを、相殺適状になった段階で相殺し、Dに対抗することができる。H23-6-2
  4. [正しい]。敷金契約は賃貸借契約とは別個の契約で、賃貸借に基づいて生ずる賃借人の一切の債務を担保する目的がありますから、建物明渡し時に未払賃料があれば敷金契約に基づいてその未払賃料に敷金が充当され、敷金の範囲で賃料債権は当然に消滅するとされています。賃借人は、賃料債権が敷金の充当を予定した債権であることを抵当権者に主張することができるので、抵当権者は賃料債権のうち敷金が充当される部分については物上代位権を行使することができません(最判平14.3.28)。
    敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合において,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたときは,賃料債権は,敷金の充当によりその限度で消滅する。
    甲建物の抵当権者Eが、物上代位権を行使してAのBに対する賃料債権を差し押さえた場合、その後に賃貸借契約が終了し、目的物が明け渡されたとしても、Bは、差し押さえにかかる賃料債務につき、敷金の充当による当然消滅を、Eに対抗することはできない。H23-6-3
    甲建物の抵当権者がAのBに対する賃料債権につき物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合においても、その賃料が支払われないまま賃貸借契約が終了し、甲建物がBからAに明け渡されたときは、その未払賃料債権は敷金の充当により、その限度で消滅する。H20-10-4
したがって正しい記述は[4]です。