担保物権(全30問中29問目)

No.29

Aが、Bに賃貸している建物の賃料債権の先取特権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
平成12年試験 問3
  1. Aは、賃貸した建物内にあるB所有の家具類だけでなく、Bが自己使用のため建物内に持ち込んだB所有の時計や宝石類に対しても、先取特権を有する。
  2. Bが、建物をCに転貸したときには、Aは、Cが建物内に所有する動産に対しても、先取特権を有する。
  3. Bがその建物内のB所有の動産をDに売却したときは、Aは、その代金債権に対して、払渡し前に差押えをしないで、先取特権を行使することができる。
  4. AがBから敷金を預かっている場合には、Aは、賃料債権の額から敷金を差し引いた残額の部分についてのみ先取特権を有する。

正解 3

問題難易度
肢115.7%
肢219.0%
肢347.2%
肢418.1%

解説

  1. 正しい。賃料債権の先取特権は、賃借人が建物内に備え付けた動産に対しても及びます(民法313条2項)。また、賃貸した建物に備え付けた家具類だけでなく、自己使用のため建物内に持ち込んだ時計や宝石類に対しても先取特権を有します(大判大3.7.4)。
    建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。
    民法313条第2項の建物に備え付けたる動産とは、賃借人が一定期間継続して存置するために建物内に持込んだ動産であれば足り、金銭、有価証券、賃借人その家族の一身の使用に供する懐中時計・宝石類にも及ぶ。
    Aは、Bに対する賃料債権に関し、Bが建物に備え付けた動産、及びBのCに対する賃料債権について先取特権を有する。H23-7-2
  2. 正しい。賃借権の譲渡や転貸借の場合も建物賃貸借と同様に、賃貸人は、賃借権の譲受人や転借人の動産や金銭についても先取特権を有します(民法314条)。例えば、Bの賃料不払いがあった後に、建物賃借権の譲渡または転貸借がされた場合などをイメージすると良いでしょう。
    したがって、賃貸人Aは、転借人Cが建物内に持ち込んだ所有物等の動産に対しても先取特権を有します。
    賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。
  3. [誤り]。先取特権は、債務者が先取特権の目的物を売却するなどして受け取る金銭についても行使することが可能です。ただし、目的物の払渡しや引渡しの前に差押えをしなければなりません民法304条1項)。よって、Aは払渡し前に差押えをしなければ、動産の代金債権に対して先取特権を行使することはできません。
    また、先取特権を有する動産であっても、その動産が第三取得者に引き渡された後は、その動産について先取特権を行使することができません(民法333条)。
    先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
    先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。
    当該建物に火災保険が付されていて、当該建物が火災によって焼失してしまった場合、Bの抵当権は、その火災保険契約に基づく損害保険金請求権に対しても行使することができる。H22-5-2
    抵当権者は、抵当権を設定している建物が火災により焼失した場合、当該建物に火災保険が付されていれば、火災保険金に物上代位することができる。H17-5-3
    Bが、BのCに対する将来にわたる賃料債権を第三者に譲渡し、対抗要件を備えた後は、Cが当該第三者に弁済する前であっても、Aは、物上代位権を行使して当該賃料債権を差し押さえることはできない。H15-5-1
  4. 正しい。敷金の授受がある場合には、賃料債権から敷金を差し引いた残額について先取特権を有することとなります(民法316条)。敷金があるのに、それを賃料債権に充当しないで先取特権を行使することを防ぐためです。
    賃貸人は、第六百二十二条の二第一項に規定する敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。
したがって誤っている記述は[3]です。