債権総則(全37問中31問目)
No.31
Aは、B所有の建物を賃借し、毎月末日までに翌月分の賃料50万円を支払う約定をした。またAは敷金300万円をBに預託し、敷金は賃貸借終了後明渡し完了後にBがAに支払うと約定された。AのBに対するこの賃料債務に関する相殺についての次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。平成16年試験 問8
- Aは、Bが支払不能に陥った場合は、特段の合意がなくても、Bに対する敷金返還請求権を自働債権として、弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することができる。
- AがBに対し悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権を有した場合、Aは、このBに対する損害賠償請求権を自働債権として、弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することはできない。
- AがBに対して商品の売買代金請求権を有しており、それが令和6年9月1日をもって時効により消滅した場合、Aは、同年9月2日に、このBに対する代金請求権を自働債権として、同年8月31日に弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することはできない。
- AがBに対してこの賃貸借契約締結以前から貸付金債権を有しており、その弁済期が令和6年8月31日に到来する場合、同年8月初日にBのAに対するこの賃料債権に対する差押があったとしても、Aは、同年8月31日に、このBに対する貸付金債権を自働債権として、弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することができる。
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正解 4
問題難易度
肢122.3%
肢213.8%
肢325.0%
肢438.9%
肢213.8%
肢325.0%
肢438.9%
分野
科目:1 - 権利関係細目:7 - 債権総則
解説
- 誤り。相殺をしようとする場合、自働債権の弁済期が到来している必要があります(民法505条1項)。条文では「双方の債務が…」となっていますが、受働債権の期限の利益はいつでも放棄できるので、実質的には自働債権さえ弁済期がきていれば相殺可能です。
本肢は、敷金返還請求権を自働債権としようとしていますが、敷金返還請求権は建物明渡し後に生じるので、賃貸借が継続している段階では弁済期になく、相殺をすることはできません(民法622条の2第1項1号)。二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
賃貸人は、敷金(中略)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。BがAに対して同年12月31日を支払期日とする貸金債権を有している場合には、Bは同年12月1日に売買代金債務と当該貸金債権を対当額で相殺することができる。(H30-9-1) - 誤り。悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権を受働債権として相殺することはできません。しかし、これを自働債権とする相殺は可能です(民法509条)。
次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)同年10月10日、BがAの自動車事故によって被害を受け、Aに対して不法行為に基づく損害賠償債権を取得した場合には、Bは売買代金債務と当該損害賠償債権を対当額で相殺することができる。(H30-9-3)買主に対して債権を有している売主は、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を悪意で買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権を受働債権とする相殺をもって、買主に対抗することができない。(H28-9-3)Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aに使用者としての損害賠償責任が発生する場合、Aが被害者に対して売買代金債権を有していれば、被害者は不法行為に基づく損害賠償債権で売買代金債務を相殺することができる。(H18-11-3) - 誤り。消滅時効期間が経過する以前に相殺適状(相殺できる状態)にあった場合、消滅時効を援用していない限り、時効期間経過後も相殺をすることができます(民法508条)。
時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。
- [正しい]。差押え後に取得した債権の場合、差し押さえられた債権に対する相殺は認められません。しかし、差押え前の取得であれば弁済期が差押え後であったとしても相殺が認められます(民法511条1項)。
本肢を時系列で整理すると、以下のようになります。- 賃借人Aが賃貸人Bに対して貸付金債権を有している
- 8月初日に賃貸人Bの賃料債権が差押え
- 8月31日に貸付金債権の弁済期が到来
差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
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