債権総則(全35問中32問目)

No.32

AB間の土地売買契約中の履行遅滞の賠償額の予定の条項によって、AがBに対して、損害賠償請求をする場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
平成14年試験 問7
  1. 賠償請求を受けたBは、自己の履行遅滞について、帰責事由のないことを主張・立証すれば、免責される。
  2. Bが、Aの過失を立証して、過失相殺の主張をしたとき、裁判所は損害額の算定にその過失を考慮することができる。
  3. 裁判所は、賠償額の予定の合意が、暴利行為として公序良俗違反となる場合でも、賠償額の減額をすることができない。
  4. Aは、賠償請求に際して、Bの履行遅滞があったことを主張・立証すれば足り、損害の発生や損害額の主張・立証をする必要はない。

正解 3

問題難易度
肢19.0%
肢24.2%
肢366.7%
肢420.1%

解説

  1. 正しい。債務不履行による損害賠償請求は、債務者に帰責事由があるときでなければできません(民法415条1項)。賠償額の予定が定められている場合でも同様です。よって、Bは自身の履行遅滞に帰責事由(法的に責任を負わせる事由)がないことを主張・立証すれば免責されます。
    債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
    契約に基づく債務の履行が契約の成立時に不能であったとしても、その不能が債務者の責めに帰することができない事由によるものでない限り、債権者は、履行不能によって生じた損害について、債務不履行による損害の賠償を請求することができる。R2⑫-4-4
    売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合、買主は、工事施工者に対して損害賠償請求をすることができる。H23-9-1
  2. 正しい。債権者に過失があった場合、裁判所はその過失を考慮して損害賠償責任及びその額を定めます(民法418条)。これは賠償額の予定が定められている場合であっても同様です(最判平6.4.21)。よって、賠償請求を受けたBが債権者Aの過失を主張すれば、裁判所はその過失を考慮することになります。
    債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。
    当事者が損害賠償の額を予定した場合においても、債務不履行に関し債権者に過失があったときは、特段の事情のない限り、裁判所は、損害賠償の責任及びその金額を定めるにつき、これをしんしゃくすべきである。
    債務の不履行に関して債権者に過失があったときでも、債務者から過失相殺する旨の主張がなければ、裁判所は、損害賠償の責任及びその額を定めるに当たり、債権者の過失を考慮することはできない。H22-6-4
  3. [誤り]。裁判所は、公序良俗違反や消費者契約法違反などを理由に賠償額の予定を増減することができます。民法改正前は増減することができないとされていましたが、実情に合わせて条文から文言が削除されました(民法421条)。
  4. 正しい。Aは賠償請求に際して、Bの履行遅滞があったことを主張・立証すれば足り、損害の発生や損害額の主張・立証をする必要はありません(大判大11.7.26)。賠償額の予定の条項に従う必要があり、損害が大きくなっていてもその額を請求することはできません。
    賠償額の予定契約がある場合,債権者は,債務不履行の事実があれば,損害の発生およびその額を証明しないでも,予定賠償額を請求することができる
    Bの債務不履行によりAが売買契約を解除する場合、手付金相当額を損害賠償の予定とする旨を売買契約で定めていた場合には、特約がない限り、Aの損害が200万円を超えていても、Aは手付金相当額以上に損害賠償請求はできない。H16-4-3
したがって誤っている記述は[3]です。