宅建試験過去問題 令和7年試験 問7
問7
Aは自己の所有する甲建物を事務所としてBに賃貸し(以下この問において「本件契約」という。)、その後、本件契約の期間中に甲建物の屋根に雨漏りが生じたため、CがBから甲建物の屋根の修理を請け負い、Cによる修理が完了した。この場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- BがCに修理代金を支払わないまま無資力となり、賃料を滞納して本件契約が解除されたことにより甲建物はAに明け渡された。この場合、CはAに対して、事務管理に基づいて修理費用相当額の支払を求めることはできない。
- BがCに修理代金を支払ったとしても、本件契約において、Aの負担に属するとされる甲建物の屋根の修理費用について直ちに償還請求することができる旨の特約がない限り、契約終了時でなければ、BはAに対して償還を求めることはできない。
- BがCに修理代金を支払わない場合、Cは、Bが占有する甲建物につき、当然に不動産工事の先取特権を行使することができる。
- BがCに修理代金を支払わないまま無資力となり、賃料を滞納して本件契約が解除されたことにより甲建物はAに明け渡された。本件契約において、BがAに権利金を支払わないことの代償として、甲建物の修理費用をBの負担とする旨の特約が存し、当該屋根の修理費用と権利金が相応していたときであっても、CはAに対して、不当利得に基づいて修理費用相当額の支払を求めることができる。
広告
正解 1
問題難易度
肢124.1%
肢27.3%
肢318.2%
肢450.4%
肢27.3%
肢318.2%
肢450.4%
分野
科目:1 - 権利関係細目:9 - 賃貸借契約
解説
- [正しい]。事務管理による費用償還は、義務なく他人のために事務を管理した管理者が、本人のために有益な費用を支出したときに成立します(民法697条1項)。Cの行った工事はBとの請負契約に基づくもので、Aのために事務管理を行ったとは言えません。したがって、事務管理を根拠にAに修理費用を請求することはできません。この場合、CはAに対し、不当利得を根拠として、代金の返還を請求することができます(最判昭45.7.16)。
義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
甲が乙所有のブルドーザーをその賃借人丙の依頼により修理した場合において、その後丙が無資力となつたため、同人に対する甲の修理代金債権の全部または一部が無価値であるときは、その限度において、甲は乙に対し右修理による不当利得の返還を請求することができる。
- 誤り。賃貸人は賃貸物の使用収益に必要な修繕義務を負います。急迫な事情があるときは、賃借人が賃借物を自ら修繕することが認められており、賃借人が賃貸人負担に属する「必要費」を支出したときは、直ちに償還を請求できます(民法608条1項)。契約終了時の償還となるのは「有益費」です。
賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
Bは、①では、甲建物のAの負担に属する必要費を支出したときは、Aに対しその償還を請求することができるが、②では、甲建物の通常の必要費を負担しなければならない。(H27-3-2) - 誤り。不動産工事の先取特権は、債務者の不動産に関する工事費用についてその不動産に存在します(民法327条1項)。Cの債務者はBですが、甲建物はA所有なので債務者の不動産には当たりません。また、不動産工事の先取特権は、工事開始までにその費用の予算額を登記することが必要です(民法338条1項)。したがって、当然には先取特権を行使できません。
【参考】
不動産の先取特権には、不動産保存、不動産工事、不動産売買の3種があり、いずれも登記が必要です。不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について
不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。
- 誤り。不当利得は、法律上の原因なく、他人の財産・労務によって利益を受けた場合に返還義務が生じます(民法703条)。上記の「法律上の原因なく利益を受けた」といえるのは、契約全体を見たときに、その者が対価関係なしに利益を受けた場合に限られます。本件でAが得た「建物の修繕・労務の提供」という利益は、Bが権利金を払わない代わりに修繕するという対価関係に基づくものです。そのため、その対価の限度において不当利得は成立しません(最判平7.9.19)。
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
甲が建物賃借人乙との間の請負契約に基づき建物の修繕工事をしたところ、その後乙が無資力になったため、甲の乙に対する請負代金債権の全部又は一部が無価値である場合において、右建物の所有者丙が法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、丙が対価関係なしに右利益を受けたときに限られる。
広告
広告