債権総則(全37問中11問目)

No.11

Aは、令和6年10月1日、A所有の甲土地につき、Bとの間で、代金1,000万円、支払期日を同年12月1日とする売買契約を締結した。この場合の相殺に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
平成30年試験 問9
  1. BがAに対して同年12月31日を支払期日とする貸金債権を有している場合には、Bは同年12月1日に売買代金債務と当該貸金債権を対当額で相殺することができる。
  2. 同年11月1日にAの売買代金債権がAの債権者Cにより差し押さえられても、Bは、同年11月2日から12月1日までの間にAに対する別の債権を取得した場合には、同年12月1日に売買代金債務と当該債権を対当額で相殺することができる。
  3. 同年10月10日、BがAの自動車事故によって被害を受け、Aに対して不法行為に基づく損害賠償債権を取得した場合には、Bは売買代金債務と当該損害賠償債権を対当額で相殺することができる。
  4. BがAに対し同年9月30日に消滅時効の期限が到来する貸金債権を有していた場合には、Aが当該消滅時効を援用したとしても、Bは売買代金債務と当該貸金債権を対当額で相殺することができる。

正解 3

問題難易度
肢115.0%
肢211.4%
肢361.5%
肢412.1%

解説

  1. 誤り。相殺には、原則として双方の債権の弁済期が到来していることが必要です(民法505条1項)。本肢では、相殺をしようとする日が12月1日、貸金債権の支払期日が12月31日(弁済期未到来)なので相殺することはできません。
    二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
    Aは、Bが支払不能に陥った場合は、特段の合意がなくても、Bに対する敷金返還請求権を自働債権として、弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することができる。H16-8-1
  2. 誤り。自働債権の取得時期が、受働債権の差押えを受けた後であるときには相殺はできません(民法511条1項)。Bが11月2日から12月1日までに取得した債権は、11月1日の差押え後に取得されたものなので、BはAの売買代金債権と相殺をすることはできません。
    差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
    Aの債権者Cが、AのBに対する賃料債権を差し押さえた場合、Bは、その差し押さえ前に取得していたAに対する債権と、差し押さえにかかる賃料債務とを、その弁済期の先後にかかわらず、相殺適状になった段階で相殺し、Cに対抗することができる。H23-6-1
    AがBに対してこの賃貸借契約締結以前から貸付金債権を有しており、その弁済期が令和6年8月31日に到来する場合、同年8月初日にBのAに対するこの賃料債権に対する差押があったとしても、Aは、同年8月31日に、このBに対する貸付金債権を自働債権として、弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することができる。H16-8-4
  3. [正しい]。悪意による不法行為、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権を受働債権とする相殺をすることはできません(民法509条)。ただし、これを自働債権とする相殺は可能ですので、BからAに対しての相殺は有効となります。
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    次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
    一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
    二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
    買主に対して債権を有している売主は、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を悪意で買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権を受働債権とする相殺をもって、買主に対抗することができない。H28-9-3
    Bの不法行為がAの事業の執行につき行われたものであり、Aに使用者としての損害賠償責任が発生する場合、Aが被害者に対して売買代金債権を有していれば、被害者は不法行為に基づく損害賠償債権で売買代金債務を相殺することができる。H18-11-3
    AがBに対し悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権を有した場合、Aは、このBに対する損害賠償請求権を自働債権として、弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することはできない。H16-8-2
  4. 誤り。一方の債権が時効により消滅した場合でも、消滅前に相殺適状にあった場合には相殺可能です。しかし、本肢の場合、売買代金債権成立前の9月30日に貸金債権が時効消滅しているため、相殺適状にはなっていません(民法508条)。よって、Aが当該消滅時効を援用した場合、Bは相殺をすることはできません。
    時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。
    AのCに対する債権が、CのAに対する債権と相殺できる状態であったにもかかわらず、Aが相殺することなく放置していたためにAのCに対する債権が時効により消滅した場合、Aは相殺することはできない。H17-4-3
    AがBに対して商品の売買代金請求権を有しており、それが令和6年9月1日をもって時効により消滅した場合、Aは、同年9月2日に、このBに対する代金請求権を自働債権として、同年8月31日に弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することはできない。H16-8-3
したがって正しい記述は[3]です。