宅建試験過去問題 平成12年試験 問2(改題)

問2

Aは、BのCに対する金銭債務を担保するため、A所有の土地に抵当権を設定し、物上保証人となった。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。
  1. Aは、この金銭債務の消滅時効を援用することができる。
  2. Aが、Cに対し、この金銭債務が存在することを時効期間の経過前に承認した場合、当該債務の消滅時効の更新の効力が生じる。
  3. Bが、Cに対し、この金銭債務が存在することを時効期間の経過前に承認した場合、Aは、当該債務の消滅時効の更新の効力を否定することができない。
  4. CからAに対する不動産競売の申立てがされた場合、競売開始決定の正本がBに送達された時に、この金銭債務の消滅時効の完成猶予の効力が生じる。

正解 2

問題難易度
肢113.0%
肢234.9%
肢327.3%
肢424.8%

解説

  1. 正しい。消滅時効の援用は、債務者だけでなく「権利の消滅について正当な利益を有する者」もすることができます。物上保証人であるAは、権利の消滅について正当な利益を有しますから消滅時効を援用することができます(民法145条)。法律用語としての援用は、主張と読み替えて解釈することができます。
    時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
    消滅時効の援用権者である「当事者」とは、権利の消滅について正当な利益を有する者であり、債務者のほか、保証人、物上保証人、第三取得者も含まれる。R2⑫-5-1
  2. [誤り]。判例では、物上保証人が債務を承認しても、債権者と物上保証人の関係において時効の更新の効力は生じないとしています(最判昭62.9.3)。また、時効の完成猶予・更新は原則として相対効ですから、物上保証人が債務の承認をしてもその消滅時効の更新の効力は債務者には及びません(民法153条3項)。よって、債権者と債務者、債権者と物上保証人いずれの関係においても消滅時効の更新は生じないことになります。
    物上保証人が債権者に対し被担保債権の存在を承認しても、右の承認によつては、債権者と物上保証人との相対的関係においても、被担保債権について時効中断の効力は生じない。
    前条の規定による時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
  3. 正しい。時効の完成猶予・更新は原則として相対効ですが、債務者が債務を承認し、時効が更新された場合、物上保証人はその効力を否定することができません(最判平7.3.10)。抵当権の付従性(被担保債権と一体である性質)、抵当権の消滅に関する規定(民法396条)などに抵触する行為であるからというのがその理由です。
    物上保証人は、債務者の承認により被担保債権について生じた消滅時効中断の効力を否定することができない。
    抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
  4. 正しい。不動産競売の申立てがされた場合、競売開始決定の正本が債務者Bに送達された時点で、通知したこととして消滅時効の完成猶予の効力が生じます(最判昭50.11.21)。競売開始決定は時効の完成猶予事由に該当しますが、物上保証人の担保が競売にかけられる場合は、債務者への通知がなければ消滅時効の完成猶予の効力は生じません(民法154条)。債務者が知らないうちに完成猶予の効力が生じると不利益となるおそれがあるからです。
    物上保証人に対する抵当権の実行により、競売裁判所が競売開始決定をし、これを債務者に告知した場合には、被担保債権についての消滅時効は中断する。
    第百四十八条第一項各号又は第百四十九条各号に掲げる事由に係る手続は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、第百四十八条又は第百四十九条の規定による時効の完成猶予又は更新の効力を生じない。
したがって誤っている記述は[2]です。