債権総則(全37問中22問目)

No.22

民法第423条第1項は、「債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。」と定めている。これに関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
平成22年試験 問7
  1. 債務者が既に自ら権利を行使しているときでも、債権者は、自己の債権を保全するため、民法第423条に基づく債権者代位権を行使することができる場合がある。
  2. 未登記建物の買主は、売主に対する建物の移転登記請求権を保全するため、売主に代位して、当該建物の所有権保存登記手続を行うことができる場合がある。
  3. 建物の賃借人は、賃貸人(建物所有者)に対し使用収益を求める債権を保全するため、賃貸人に代位して、当該建物の不法占有者に対し当該建物を直接自己に明け渡すよう請求できる場合がある。
  4. 抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し当該不動産を適切に維持又は保存することを求める請求権を保全するため、その所有者の妨害排除請求権を代位行使して、当該不動産の不法占有者に対しその不動産を直接自己に明け渡すよう請求できる場合がある。

正解 1

問題難易度
肢146.8%
肢220.3%
肢313.9%
肢419.0%

解説

  1. [誤り]。債務者自らが、既に権利を行使している場合は、債権者代位権を行使することはできません(最判昭28.12.14)。
    債務者がすでに自ら権利を行使している場合には、その行使の方法または結果の良いと否とにかかわらず、債権者は債権者代位権を行使することはできない。
  2. 正しい。未登記建物とは登記が行われていない建物のことです。買主には売主に移転登記を請求する権利がありますが、所有権移転登記をするまでに所有権保存登記が行われていなければその請求もできません。よって、未登記建物の買主は、売主に代位して、当該建物の所有権保存登記手続を行うことができる場合があると判示されています(大判大5.2.2)。
    未登記不動産の買主は、売主に対する移転登記請求権を保全するため、売主に代位して所有権保存登記手続をなしうる。
  3. 正しい。賃借権は債権ですが、対抗要件を備えた不動産の賃借権には物権である所有権と同様に、第三者に対する明渡し請求権・妨害停止請求権が認められています(民法605条の4)。また判例では、建物の賃借人は、賃貸人の所有権に基づき、不法占拠者に対して当該建物の返還を請求することができるとしています(最判昭29.9.24)。
    不動産の賃借人は、第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。
    一 その不動産の占有を第三者が妨害しているときその第三者に対する妨害の停止の請求
    二 その不動産を第三者が占有しているときその第三者に対する返還の請求
    建物の賃借人が、賃貸人たる建物所有者に代位して、建物の不法占拠者に対しその明渡を請求する場合には、直接自己に対して明渡をなすべきことを請求することができる。
    Dが甲土地を不法占拠してAの土地利用を妨害している場合、①では、Aは当該権原に基づく妨害排除請求権を行使してDの妨害の排除を求めることができるが、②では、AはDの妨害の排除を求めることはできない。R4-8-4
  4. 正しい。抵当権者は、競売価格の低下を防止するなどの理由から、所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使して、不法占有者に対しその不動産を直接自己に明け渡すよう請求できる場合があります(最判平11.11.24)。
    第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対して有する右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を保全するため、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる。
    対象不動産について第三者が不法に占有している場合、抵当権は、抵当権設定者から抵当権者に対して占有を移転させるものではないので、事情にかかわらず抵当権者が当該占有者に対して妨害排除請求をすることはできない。H25-5-3
したがって誤っている記述は[1]です。