賃借権の時効取得ってどういうことですか?

88さん
(No.1)
平成22年試験問3をしてて思いました。
タイトルのとおりです。

土地賃借権は所有権ではありませんが時効取得の対象となります。
どういうことですか?
20年間賃借続けても所有することはできませんよね?
賃借権の取得ってどういう状況ですか?
期限がなくなるってことですか?
賃料払って土地借りるなら賃借権?の取得…?!?!?!
2022.12.13 15:43
れふぃさん
(No.2)
大前提として取得時効に債権の適用はありません。
制度として用意されているのは、
・(所有権の取得時効)第百六十二条
・(所有権以外の財産権の取得時効)第百六十三条
いずれも「占有の継続」が要件となっているので、債権債務関係を「占有」っておかしくないですか。

で、判例が修正しています。
債権ではあるけれども不動産賃借権は取得時効ができる場合がある(最判S43.10.8)、です。
内容はちょっと細かいので割愛しますが、ご質問の回答を。

>(不動産)賃借権の(時効)取得ってどういう状況ですか?
例えばこのような状況です。
大家=A
家を借りたと思って住んでる人=Y
大家から不動産を買った人=X

          賃貸借契約    売買    
所有者A    A→Y      A→X    X⇒Y立退き請求    裁判
ー▲ーーーー①ーーーー②ーーー③ーーーーーーーー④→

不動産賃借権は登記できて、Yの名義で登記していれば文句なしにYの勝ちです。
しかし、アパート借りて賃借権の登記した人いないでしょう。普通は登記なんてしないんです、賃借権には登記請求権は認められないし、たかだか月々5万円の家賃程度の物件なら普通はそのまま住みます。
※この点、借地借家法の対抗力の是正はされているので注意。
さて、今回②で大家AからXが家を購入したんです。しかし、XはYが住んでいるなど知る由もなかったんです。所有権者は新オーナーXなので、物権的請求権が当然にあります。Xから見てYなど不法占拠者なので当然に立退き請求が可能です。
④の裁判になった場合に、Yとしては例えば前述の借31による建物賃貸借の対抗力を主張することは可能ではあります。不動産賃借権の対抗力は「登記」のほか、「借地借家法の保護」があるからです。
しかし、①が10年以上も前の話の場合、賃貸借契約書なんてどっかいってますよね。
そう、新オーナーXから出ていけと迫られているYは「①賃貸借」を証明する必要があるんです。
裁判のルールとして「真偽不明」の場合、「賃貸借契約があったんだ」と主張するYの負けってことになってしまいます。そこで取得時効の主張をしてそれが認められたって話です(S43判例)。
2022.12.13 16:27
れふぃさん
(No.3)
>そこで取得時効の主張をしてそれが認められたって話です(S43判例)。
この後の話を少し加筆w

Yの主張した不動産賃借権の取得時効が認められた。
つまり、Yは明渡請求してきたXに対して賃料を支払ってそのまま住み続ける事ができるって意味です。

一応、こちらにも回答すると、
>20年間賃借続けても所有することはできませんよね?
当然、所有権者になる可能性はゼロです。
どっかのタイミングで大家Aや新オーナーXに対してYが「今まで借りてたけど、今日から俺が所有すっからwww」と主張しないと取得時効の20年(今回悪意だろうから)が進みませんw
そんで、普通はそんな事言われたらAやXは即、立退き請求をするはずです。
根拠としては「所有の意思を持った占有」ですね。当初の①のタイミングで本ケースは「AYの賃貸借契約」がされているので、Yの権原は「賃借権」です。この賃借人の地位として占有しているだけの人です。これが途中から突然「所有の意思を持った占有」に切り替わるわけがありません。
Yがいくら心の中で「よし、アパート借りてっけど今日から俺が所有者になろう」といくら思ったところで当初の①に拘束されます。というかこんなんで取得時効の適用を認めていたら世の中からアパートを経営する大家なんていなくなりますw
2022.12.13 16:38
88さん
(No.4)
れふぃさん

すごく丁寧な解説ありがとうございます!!
私これ無料で教えていただいていいんですか?!というくらいわかりやすかったです。

検索してもよくわからなくてわけわからなくなってたので助かりました。

他にも民法難しいこと多くてわかんないことがたくさんあるので、また行き詰まったら質問させてもらいます。
よろしくお願いします!!

🥰
2022.12.13 17:06
たけとさん
(No.5)
私もこの問題、しっくりきませんでした。
私なりの解釈ですので違っていたらすみません。

>土地賃借権は所有権ではありませんが時効取得の対象となります。
>どういうことですか?
>20年間賃借続けても所有することはできませんよね?
>賃借権の取得ってどういう状況ですか?
>期限がなくなるってことですか?
>賃料払って土地借りるなら賃借権?の取得…?!?!?!

あくまでも所有権と土地賃借権は別個のものなので、分離して考えたほうが良いと思います。

おっしゃるとおりで、20年間借り続けていても時効によりその土地を取得することはできません。
なぜなら、当初から所有の意思を持って占有していたわけではなく、土地を借りる意思を持って賃借料を支払い続けていた状況だからです。

一方、賃借権は債権ですので、だれがみてもずっと借主が当該土地を借り続けていた事実があれば、一定期間経過により、賃借権を時効取得できることを認めますよ、との判例があります。

じゃあ、時効取得を認めるから何なんだ、何の意味があるんだ、と突っ込みたくなるのですが、


特に揉めていない貸主借主の当事者同士では、時効取得してもほとんど意味ないことなのだろうと思います。

しかしながら、もし貸主が無断で当該土地を悪い第3者に売却した場合、「当事者同士の賃貸借契約なんて知らん」と言って、借主に「早く残置物をどかせ!」と主張してくる可能性があります。

こうしたときに判例で認めた借主が賃借権の時効取得できる規定の出番です。

賃借権は登記していないと第三者に対抗できません。

ですので、時効取得して、かつ登記しておくことで、これをもって第3者に賃借権を対抗(正当に賃借権という権利があるから、残置物をどかす必要はないと主張可能)できるようになります。

したがって、賃借権の時効取得を認めた判例があることで、借主にとっては、こうした恩恵を受けられるようになったのだと思います。
2022.12.13 17:19
れふぃさん
(No.6)
たけとさん
およその理解は正しいと思います。ただ、

>当該土地を悪い第3者に売却した場合

本ケースで一番の問題点は上記の私の例だと「当初の所有権者の大家A」です。
Aが収益物件として新オーナーXに売っていたら、こんな訴訟になってません。新オーナーは「賃料をもらえるんだな」って思っていますので。
ところが、Aは「居住物件」として新オーナーXに売ったはずです。
当たり前ですが、収益物件より高い値段で売っているんです。
そして高い値段をぽっけに入れてとんずらこいてます、きっとこれ。

新オーナーXとしては不履行解除とかAに請求しようにも、いないのでどうしようもありません。
なので仕方なしに「住むから出ていけ」とYに請求したのではないかと思います。
悪人Aのために善人XYが泣いている、これが問題の所在です。
裁判所としては「XYで仲良く2人で一緒に暮せ」とは民事訴訟法に反するのでそういう判決が書けません。したがって、裁判所としても泣く泣く判決を書いているはずです。

上記のS43判でなぜ被告が「大家A」ではなく「賃借人Y」なのかを考えるとそういう理解が私はしっくりきます。
2022.12.13 17:38
Mmegさん
(No.7)
これ、しっくり来てますか?

賃借権の時効取得…
つまりそれって、もともとは借りる権利を持ってなかったということですよね。
賃借権があるなら、わざわざ時効取得する必要ないですから。
だって契約によってその権利すでに持ってるし。

この根本的なところが明確になってないからおかしな気がしてるんです。

借地はそこに建てた建物の登記をすれば第三者に対抗できますし、借家は登記がなくても引き渡しを受けていれば第三者に対抗できます。
オーナーチェンジした場合、新オーナーは賃貸借契約を引き継がなければなりませんので、正当事由がなければ契約解除もできません。

賃借権の時効に関する判例を調べたところ、管理者と称する者(無権利者)から賃借してたら本物の所有者が出てきたケースや、分割した土地を借りている2者が境界線で争ったケースなど。

つまり、契約してるつもりだったけど無効だったとか、契約範囲を越えて使ってたとか、要するに本当は借りる権利持ってなかったんだけど、借りる意志を持って平穏かつ公然と使い続けてる場合かと思います。
2022.12.14 01:34
れふぃさん
(No.8)
Mmegさん
およそ正しいと思うのですが一点だけ。

>オーナーチェンジした場合、新オーナーは賃貸借契約を引き継がなければなりません
おっしゃる通り、契約上の地位の移転は原則として三者契約(上記の例だとAXY)なのですが(民539の2)、この点について民法は賃貸借に特則を置いております(下記、民605の2)。

(不動産の賃貸人たる地位の移転)
第六百五条の二  前条、借地借家法(平成三年法律第九十号)第十条又は第三十一条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。

条文の前半をきちんと読めばわかるかと思いますが、これ対抗要件を備えた賃借権の話です。
・前条=登記した不動産賃借権(605)
・借地借家法上の対抗力を得た不動産賃借権(10=土地、31=建物)

したがって、本事例(上記S43判例:不動産賃借権の時効取得)においては対抗力ない賃借権だと前コメントで散々長文をぶっこんだ私の話が妥当するかと思います。
民法の法格言で「売買は賃貸借を破る」というものがあります。
まさに、「対抗力のない賃借権」の問題です。
ちなみに新オーナーXの賃借人Yへの対抗要件は所有権移転登記ですが(民605の3後、605の2-4)、流石にそろそろ「不動産賃借権の時効取得」というお題からワープし過ぎなのでやめておきますw
2022.12.14 02:18
88さん
(No.9)
みなさんの知識が素晴らしく
みていてとても勉強になりました!

賃借権の善意悪意もよくわからなかったのですが
みなさんの投稿をみていて
借りていることの善意、悪意の状況まで
ちゃんと想像することができました。

とっても参考になりました。
ありがとうございます。😊
2022.12.14 07:58
ニャンコさん
(No.10)
この話って確か農地法絡みの話じゃなかったかしら?  と思って検索したら出てきました。
「農地法 賃借権 時効取得」でググってみてください。
2022.12.14 10:51
Mmegさん
(No.11)
れふぃさん

コメントありがとうございます。

> これ対抗要件を備えた賃借権の話です。
> ・前条=登記した不動産賃借権(605)
> ・借地借家法上の対抗力を得た不動産賃借権(10=土地、31=建物)

はい、そのつもりで投稿しました。
れふぃさんの例は借家の話でしたので、31条「建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。」
借家はこの対抗力を具備していれば、物権を上回りますよね。

賃貸借契約は売買契約と違って継続性がありますから、前所有者から引き渡しを受け賃料を払い続けていれば、賃借権は立証されると思うので、Yが負けるのが腑に落ちず…。
というか、「賃料払い続けてたから時効取得できる」というなら、それ以前に「賃料払い続けてたから普通に賃借人」として守られていいはずだと思ってしまいます。
むしろ購入する家に人が住んでることに気づかないXに過失はないのか?と思ったりします。
もしかしてこの話は使用貸借契約だったのでしょうか。
でも、それはそれで賃借権の時効取得できないから違うか…。

そもそも43.10.8判例というのがなかなか見つからず、でも、やっと見つけました。
これ、借家じゃなくて借地の話なんですね。
借地は登記が必要だから対抗要件具備してないケースはありがちな気がします。
土地なら腑に落ちます。
元々の質問も土地の賃借権でしたね。

ニャンコさんのおっしゃる農地はまた別のパターンですよね。
農地法の許可がないと賃貸借契約は無効ですが、これを時効取得したということのようですね。
ちなみに農地の賃貸借は登記なくても引渡で第三者に対抗できますね。
今年の試験にも出題されましたね。

私も話がそれていきそうなのでこの辺にします。
失礼しました。
2022.12.15 02:45
れふぃさん
(No.12)
Mmegさん
全面的におっしゃる通りですwww
そもそも「例えばどういう状況?」というご質問だったのであまり検討せずに具体例を書いてしまった私の落ち度です(;´∀`)

修正できれば修正するのですが、やり方がわからんw

そして、裁判所HPに行って判決の原文も確認しました。ってか判事事項も確認しましたけど、S42判は土地賃借権の判例だったんですね、そもそもが。
まぁ、ただ「賃借権が証明できない」ってどんな状況なのかってイメージ作りとしては間違ってはいないと思います。
近い判例だと最判S42.7.21(自分のものを時効取得できるか?という論点)のイメージに近いです。結局のところ「取引が古くて契約書がなくて直接的に立証できない」という事がこの手の話の問題の所在なんです。占有者サイド、登記もない売買契約書もないで最終手段が時効取得って感じのイメージです。
裁判例については最高裁判所のHPが便利ですよ、判例検索から最判S43.10.8も最判S42.7.21も(下記2件の判例も)そちらで確認しました。

>ニャンコさんのおっしゃる農地
話題のついでに農地の時効取得の判例は農地法の許可の出題可能性があると思うので判例をコピペしておきますね。
→「農地を農地以外のものにするために買い受けた者は,農地法5条所定の許可を得るための手続が執られなかったとしても,特段の事情のない限り,代金を支払い当該農地の引渡しを受けた時に,所有の意思をもって同農地の占有を始めたものと解するのが相当である。(最判H13.10.26)」
→「時効による農地の賃借権の取得については,農地法3条の規定の適用はなく,同条1項所定の許可がない場合であっても,賃借権の時効取得が認められると解するのが相当である。(最判H16.7.13)」

ここの考え方はまず原則として農地絡みは所有権移転にしろ賃借権設定にしろ「使用収益権がある権利」絡みは「農地法の許可が効力要件」とされているのが話の発端です。で、最終的にもめるのが「時効取得vs農地法の許可」みたいな話になって農地法の許可の要否(いるのかいらないのか)が争点になることが多いです。相続による移転が典型例ですが法定移転だと農地法が一歩後退する感じですね。法律の定めによって権利が動くって決められているのに県の農業委員会の判断なんぞが優先するのはおかしいだろ、って理解でだいたい話が全てつながります。
時効取得においても法定移転グループとしての認識でよく、農地法の許可は要求されません。

ついでに、
>購入する家に人が住んでることに気づかないXに過失はないのか?
あるから裁判所が占有者サイドの肩をもってるんです。
占有者側と明渡請求側とを利益衡量した結論だと思います。
おっしゃる通り、基本的に不動産関係の訴訟は「不動産は高額取引なんだから普通は慎重になって現地調査なんてして当たり前だよね?なんで現地見なかったの?」というようなニュアンスの判例が多い印象があります。
今ぱっと浮かんだのは例えば、立木の明認関係の判例だとか。

まぁ、いずれにしてもご指摘ありがとうございます。
大変勉強になりました!!
2022.12.15 08:32
れふぃさん
(No.13)
>県の農業委員会の判断なんぞが優先するのは
修正できないのきついな。
すみません、農業委員会は市町村設置です(地自180の5-3)。県に置かれるわけではないですね。
宅建試験の試験範囲とは思えませんが念のため。
2022.12.15 08:47
Mmegさん
(No.14)
れふぃさん

詳しいご返信ありがとうございます。
色々お調べいただいて感謝です。
私も裁判所HP活用してみたいと思います。
農地法の話も興味深いですね。
こちらこそ大変勉強になりました。
ありがとうございました。
2022.12.15 10:24

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