売買契約(全29問中1問目)

No.1

次の1から4までの記述のうち、民法の規定、判例及び下記判決文によれば、正しいものはどれか。
(判決文)
所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができるものと解するのが相当である。
令和4年試験 問1
  1. 所有者AからBが不動産を買い受け、その登記が未了の間に、Cが当該不動産をAから二重に買い受けて登記を完了した場合、Cは、自らが背信的悪意者に該当するときであっても、当該不動産の所有権取得をもってBに対抗することができる。
  2. 所有者AからBが不動産を買い受け、その登記が未了の間に、背信的悪意者ではないCが当該不動産をAから二重に買い受けた場合、先に買い受けたBは登記が未了であっても当該不動産の所有権取得をもってCに対抗することができる。
  3. 所有者AからBが不動産を買い受け、その登記が未了の間に、背信的悪意者であるCが当該不動産をAから二重に買い受け、更にCから転得者Dが買い受けて登記を完了した場合、DもBに対する関係で背信的悪意者に該当するときには、Dは当該不動産の所有権取得をもってBに対抗することができない。
  4. 所有者AからBが不動産を買い受け、その登記が未了の間に、Cが当該不動産をAから二重に買い受け登記を完了した場合、Cが背信的悪意者に該当しなくてもBが登記未了であることにつき悪意であるときには、Cは当該不動産の所有権取得をもってBに対抗することができない。

正解 3

問題難易度
肢19.3%
肢28.9%
肢375.3%
肢46.5%

解説

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簡単に判例の解説をしておきます。
不動産の権利は、登記がなければ第三者に対抗することができません(民法177条)。二重譲渡があった場合は、善意・悪意を問わず、登記を先にした方がもう一方に対して所有権を主張できるのが原則ですが、背信的悪意者(悪意者のうち妨害や嫌がらせ等が目的である者)については第三者に当たらないとするのが判例法理です(最判昭43.8.2)。
この判例では、背信的悪意者は第三者には当たりませんが、背信的悪意者からの転得者は、原則として第三者に含まれるとしています。よって、もう一方の譲受人とは対抗関係となり、先に登記をしている方が所有権を主張できることになります。
  1. 誤り。
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    第一譲受人のBに対する関係で背信的悪意者であるCは、民法177条の第三者に該当しないので、BはCに対して登記なくして所有権を主張することができます。よって、CはBに所有権を対抗することができません。
  2. 誤り。
    01_2.png./image-size:206×188
    不動産に関する権利は、登記がなければ第三者に対抗することができません。よって、売買契約の先後ではなく、先に登記をした方がもう一方に対して所有権を主張できるのが原則です。よって、登記が未了のBはCに所有権を対抗することができません。
  3. [正しい]。
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    背信的悪意者からの転得者が第三者に該当するのは、Bに対する関係で背信的悪意者と評価されないときに限られます。
    本肢は、転得者Dが、第一譲受人のBに対する関係で背信的悪意者であるときなので、Dは、民法177条の第三者に該当せず、BはDに対して登記なくして所有権を主張することができます。よって、DはBに対して所有権を対抗することができません。
  4. 誤り。
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    登記の未了について悪意である場合でも、背信的悪意者でなければ民法177条の第三者に該当します。単なる悪意者が排除されないのは自由競争の原理を一定程度保護するためです。よって、BとCは対抗関係となり、先に登記を備えたCはBに所有権を対抗することができます。
したがって正しい記述は[3]です。

参考URL: 最判平8.10.29
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52520