所有権・共有・占有権・用益物権(全34問中2問目)

No.2

Aを貸主、Bを借主として甲建物の賃貸借契約(以下この問において「本件契約」という。)が締結され、Bが甲建物の引渡しを受けた場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
令和6年試験 問7
  1. CがBに対し甲建物をAから買受けたとの虚偽の話をしたので、これを信じたBが甲建物の占有を任意にCに移転した場合、AはCに対して、占有回収の訴えにより甲建物の返還を請求することはできない。
  2. Bが、Aの甲建物への立ち入りを建物入り口を閉ざして拒んだときは、Aは甲建物の間接占有が侵奪されたものとして、Bに対して、占有回収の訴えにより甲建物の返還を請求することができる。
  3. Bが死亡して、DがBを単独相続した場合、Dは相続開始を知るまでは、Bによる甲建物の占有を承継しない。
  4. AとBのいずれもが死亡した場合、本件契約は当然に終了する。

正解 1

問題難易度
肢126.5%
肢235.9%
肢322.4%
肢415.2%

解説

  1. [正しい]。占有回収の訴えは、占有を奪われた場合に行うことができます(民法200条1項)。「占有を奪われた」というのは、占有者の意思によらずに物の所持を失った場合を指し、任意に引き渡した時は、それが他人の欺罔によって生じたときでもこれに当たりません(大判大11.11.27)。賃借人BからCへの占有移転は、Bが自己の意思に基づき行った任意の引渡しによるものなので、賃借人Bは当然のこと賃貸人Aも占有回収の訴えをすることはできません。
    占有者がその占有を奪われたときとは、占有者がその意思によらずして物の所持を失った場合を指し、占有者が他人に任意に物を移転したときは、移転の意思が他人の欺罔によって生じた場合であってもこれに当たらない。
  2. 誤り。占有回収の訴えは、占有が占有者の意思に反して第三者に奪われた場合でなければすることができません。鍵をかけて入室を拒んだとしても、依然として賃借人はその建物の占有権者であり、また賃貸人は賃借人を介して間接占有を続けており、第三者が占有を奪ったとはいえません。よって、占有回収の訴えをすることはできません(最判昭34.1.8)。
    転借人を占有代理人として間接占有を有する債借人が占有を奪われたとするには、占有代理人の所持が意思に反して第三者によつて失わしめられた場合でなければならない。
  3. 誤り。承継するには知った時点ではありません。被相続人が死亡時に保持していた占有は、相続開始時に相続人によって承継されます(最判昭44.10.30)。よって、占有権はBを単独相続したDに当然に承継されます。
    土地を占有していた被相続人が死亡し相続が開始した場合には、特別の事情のないかぎり、被相続人の右土地に対する占有は相続人によつて相続される。
  4. 誤り。賃貸借の契約上の地位は、貸主・借主のどちらの死亡であっても相続人に承継されます。したがって、契約終了とはなりません。
したがって正しい記述は[1]です。