賃貸借契約(全20問中5問目)

No.5

次の1から4までの記述のうち、民法の規定、判例及び下記判決文によれば、正しいものはどれか。
(判決文)
賃貸人は、特別の約定のないかぎり、賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りるものと解すべく、したがつて、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にたつものではないと解するのが相当であり、このことは、賃貸借の終了原因が解除(解約)による場合であつても異なるところはないと解すべきである。
令和3年10月試験 問1
  1. 賃借人の家屋明渡債務が賃貸人の敷金返還債務に対し先履行の関係に立つと解すべき場合、賃借人は賃貸人に対し敷金返還請求権をもって家屋につき留置権を取得する余地はない。
  2. 賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、1個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にあるものといえる。
  3. 賃貸借における敷金は、賃貸借の終了時点までに生じた債権を担保するものであって、賃貸人は、賃貸借終了後賃借人の家屋の明渡しまでに生じた債権を敷金から控除することはできない。
  4. 賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務の間に同時履行の関係を肯定することは、家屋の明渡しまでに賃貸人が取得する一切の債権を担保することを目的とする敷金の性質にも適合する。

正解 1

問題難易度
肢171.3%
肢29.7%
肢310.3%
肢48.7%

解説

  1. [正しい]。「家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りる」と説明されているように、家屋明渡債務は敷金返還債務より先履行の関係に立ちます。家屋明渡し前には敷金返還債務が発生していませんから、敷金返還債務を理由に家屋についての留置権を主張することはできません。つまり、敷金残額が返還されていないからと言って家屋の明渡しを拒むことはできないということです。
  2. 誤り。敷金契約は賃貸借契約に付随するものですが、賃貸借契約そのものではなく別個の契約です。したがって、両債務を1個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にあるということはできません。
  3. 誤り。敷金が担保する債務は、賃貸借契約から生じる一切の債務です。未払賃料や原状回復費用のほかにも、賃貸借契約終了後、明渡しが遅延したことによる遅延損害金なども敷金から控除することができます。
  4. 誤り。「家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にたつものではない」と結論付けているように、判決文では同時履行の関係を否定しています。判決文では「両債務間に同時履行の関係を肯定することは、敷金の性質にも適合するとはいえないのである」としています。
したがって正しい記述は[1]です。

参考URL: 最判昭49.9.2
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54200