担保物権(全30問中7問目)

No.7

Aは、A所有の甲土地にBから借り入れた3,000万円の担保として抵当権を設定した。この場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
平成28年試験 問4
  1. Aが甲土地に抵当権を設定した当時、甲土地上にA所有の建物があり、当該建物をAがCに売却した後、Bの抵当権が実行されてDが甲土地を競落した場合、DはCに対して、甲土地の明渡しを求めることはできない。
  2. 甲土地上の建物が火災によって焼失してしまったが、当該建物に火災保険が付されていた場合、Bは、甲土地の抵当権に基づき、この火災保険契約に基づく損害保険金を請求することができる。
  3. AがEから500万円を借り入れ、これを担保するために甲土地にEを抵当権者とする第2順位の抵当権を設定した場合、BとEが抵当権の順位を変更することに合意すれば、Aの同意がなくても、甲土地の抵当権の順位を変更することができる。
  4. Bの抵当権設定後、Aが第三者であるFに甲土地を売却した場合、FはBに対して、民法第383条所定の書面を送付して抵当権の消滅を請求することができる。

正解 2

問題難易度
肢121.7%
肢249.3%
肢314.0%
肢415.0%

解説

  1. 正しい。1番抵当権が設定された当時、土地の上に建物が存在し、土地と建物の所有者が同一であった場合において、その後、抵当権の実行により当該土地が第三者に渡ったときには、その建物について法定地上権が成立します(民法388条)。
    本肢では建物の所有者がAからCに移っていることが引っ掛かる部分ですが、判例では上記の要件を満たしていれば、その後に土地または建物の所有者が変わった場合でも、法定地上権は成立するとしています(大判大12.12.14)。本肢ではすべての要件を満たしているので、建物がCに売却された後、抵当権の実行により土地と建物の所有者が別々になった場合でも、C所有の建物につき法定地上権が成立します。よって、DはCに甲土地を明け渡すように請求することはできません。
    土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
    Bの抵当権設定後、Cの抵当権設定前に甲土地上に乙建物が建築され、Cが抵当権を実行した場合には、乙建物について法定地上権が成立する。H18-5-3
    Bが、甲土地及び乙建物の双方につき、Cのために抵当権を設定して、その旨の登記をした後(甲土地についてはAの後順位)、Aの抵当権が実行されるとき、乙建物のために法定地上権が成立する。H14-6-2
  2. [誤り]。抵当権には物上代位性があるので、抵当権の目的物が譲渡され若しくは滅失し、売買代金、賠償請求権及び損害保険金等に姿を変えた場合、抵当権の効力はそれらの請求権に及びます(民法372条)。しかし、土地に設定された抵当権の効力は建物に及びません。また同様に、建物に設定された抵当権の効力も土地には及びません(民法370条)。
    よって、Bは、甲土地の抵当権に基づき、建物に対する損害保険金を請求することはできません。
    抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について第四百二十四条第三項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでない。
    Aの抵当権設定登記があるB所有の建物の賃料債権について、Bの一般債権者が差押えをした場合には、Aは当該賃料債権に物上代位することができない。H24-7-1
    Aの抵当権設定登記があるB所有の建物が火災によって焼失してしまった場合、Aは、当該建物に掛けられた火災保険契約に基づく損害保険金請求権に物上代位することができる。H24-7-3
    抵当権者は、抵当権を設定している不動産が賃借されている場合には、賃料に物上代位することができる。H17-5-2
    普通抵当権でも、根抵当権でも、被担保債権を譲り受けた者は、担保となっている普通抵当権又は根抵当権を被担保債権とともに取得する。H15-6-3
  3. 正しい。抵当権の順位の変更には、各抵当権者の同意及び利害関係者の承諾が必要ですが、抵当権設定者(=不動産の所有者)は「利害関係を有する者」に該当しません。よって、順位の変更を行う際にAの同意は不要です(民法374条)。
    抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。
    2 前項の規定による順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない。
    抵当権について登記がされた後は、抵当権の順位を変更することはできない。H25-5-4
    Aが抵当権によって担保されている2,400万円の借入金全額をBに返済しても、第一順位の抵当権を抹消する前であれば、Cの同意の有無にかかわらず、AはBから新たに2,400万円を借り入れて、第一順位の抵当権を設定することができる。H18-5-2
    Bと、甲地に関する第2順位の抵当権者は、合意をして、甲地上の抵当権の順位を変更することができるが、この順位の変更は、その登記をしなければ効力が生じない。H13-7-4
  4. 正しい。抵当権が設定されている不動産を取得した者(第三取得者)は、抵当権者に対し、提示した価額で抵当権を抹消するか2カ月以内に抵当権を実行するかの選択を迫ることができます。この制度を抵当権消滅請求といい、第三取得者が各債権者に対し民法第383条所定の書面を送付して抵当権の消滅を請求することで手続きが開始します(民法379条)。
    民法第383条所定の書面とは、取得原因、取得年月日、譲渡人と取得者の氏名・住所、対価、登記事項証明書等を含む書面です(民法383条)。
    抵当不動産の第三取得者は、第三百八十三条の定めるところにより、抵当権消滅請求をすることができる。
    抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をするときは、登記をした各債権者に対し、次に掲げる書面を送付しなければならない。
    一 取得の原因及び年月日、譲渡人及び取得者の氏名及び住所並びに抵当不動産の性質、所在及び代価その他取得者の負担を記載した書面
    二 抵当不動産に関する登記事項証明書(現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る。)
    三 債権者が二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、抵当不動産の第三取得者が第一号に規定する代価又は特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し又は供託すべき旨を記載した書面
したがって誤っている記述は[2]です。