担保物権(全30問中21問目)

No.21

Aは、Bから借り入れた2,400万円の担保として第一順位の抵当権が設定されている甲土地を所有している。Aは、さらにCから1,600万円の金銭を借り入れ、その借入金全額の担保として甲土地に第二順位の抵当権を設定した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
平成18年試験 問5
  1. 抵当権の実行により甲土地が競売され3,000万円の配当がなされる場合、BがCに抵当権の順位を譲渡していたときは、Bに1,400万円、Cに1,600万円が配当され、BがCに抵当権の順位を放棄していたときは、Bに1,800万円、Cに1,200万円が配当される。
  2. Aが抵当権によって担保されている2,400万円の借入金全額をBに返済しても、第一順位の抵当権を抹消する前であれば、Cの同意の有無にかかわらず、AはBから新たに2,400万円を借り入れて、第一順位の抵当権を設定することができる。
  3. Bの抵当権設定後、Cの抵当権設定前に甲土地上に乙建物が建築され、Cが抵当権を実行した場合には、乙建物について法定地上権が成立する。
  4. Bの抵当権設定後、Cの抵当権設定前にAとの間で期間を2年とする甲土地の賃貸借契約を締結した借主Dは、Bの同意の有無にかかわらず、2年間の範囲で、Bに対しても賃借権を対抗することができる。

正解 1

問題難易度
肢154.1%
肢210.1%
肢321.6%
肢414.2%

解説

  1. [正しい]。抵当権は、一般債権よりも弁済の優先順位が上になり、また抵当権者の中では順位が上であるほどより優先して弁済を受けられます。本問の場合、譲渡も放棄もなければ原則として以下のように配当されます。
    • B … 2,400万円
    • C … 600万円
    BからCに抵当権が譲渡された場合、Bが受けるべきだった配当について、Cが優先して弁済を受けることができるので、Cが優先して1,600万円を受け取り、残った1,400万円をBが受け取ります。
    • B … 1,400万円
    • C … 1,600万円
    BからCに抵当権の放棄が行われた場合、BCの配当の合計はBC間で債権額の割合に応じて配分されることになります。
    • B … 2,400万円÷(2,400万円+1,600万円)=0.6
      3,000万円×0.6=1,800万円
    • C … 1,600万円÷(2,400万円+1,600万円)=0.4
      3,000万円×0.4=1,200万円
    ※2,400:1,600=3:2と考えることもできます。
  2. 誤り。抵当権は、単体では存在せず、被担保債権が存在することを前提として存在します(付従性)。この性質より、被担保債権が消滅すると当然に抵当権も消滅します。Aが借入金全額を返済した時点で第一順位の抵当権者はCとなり、Aが新たにBから借り入れて抵当権を設定する場合には第二順位となります。Cの同意があれば抵当権順位の入れ替えは可能ですが、本肢は「Cの同意の有無にかかわらず」としているため誤りです(民法374条)。
    抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。
    AがEから500万円を借り入れ、これを担保するために甲土地にEを抵当権者とする第2順位の抵当権を設定した場合、BとEが抵当権の順位を変更することに合意すれば、Aの同意がなくても、甲土地の抵当権の順位を変更することができる。H28-4-3
    抵当権について登記がされた後は、抵当権の順位を変更することはできない。H25-5-4
    Bと、甲地に関する第2順位の抵当権者は、合意をして、甲地上の抵当権の順位を変更することができるが、この順位の変更は、その登記をしなければ効力が生じない。H13-7-4
  3. 誤り。法定地上権は以下の要件をすべて満たしたときに成立します(民法388条)。
    1. 第1順位の抵当権設定当時、土地上に建物があること
    2. 第1順位の抵当権設定当時、土地の所有者と建物の所有者が同一であること
    3. 土地又は建物のどちらか一方に抵当権が設定されていること
    4. 抵当権の実行により、土地の所有者と建物の所有者が別人になったこと
    法定地上権が成立するためには1番抵当権の設定時に建物が存在している必要があります。1番抵当権の設定時に更地だった本肢はこの要件を満たしていません。その後、2番抵当権の設定時に建物が存在していた場合に、2番抵当権者が抵当権を実行したとしても法定地上権は成立しません(最判昭47.11.2)。
    土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
    土地に対する第一順位抵当権の設定当時その地上に建物がなく、第二順位抵当権の設定当時には建物が建築されていた場合に、第二順位抵当権者の申立により土地が競売されたときでも、右建物のため法定地上権が成立するものではない。
    Aが甲土地に抵当権を設定した当時、甲土地上にA所有の建物があり、当該建物をAがCに売却した後、Bの抵当権が実行されてDが甲土地を競落した場合、DはCに対して、甲土地の明渡しを求めることはできない。H28-4-1
    Bが、甲土地及び乙建物の双方につき、Cのために抵当権を設定して、その旨の登記をした後(甲土地についてはAの後順位)、Aの抵当権が実行されるとき、乙建物のために法定地上権が成立する。H14-6-2
  4. 誤り。抵当権設定後に賃貸借契約を締結した場合、当該貸借権を登記し、抵当権者同意の登記があれば抵当権者に対抗することが可能です(民法387条1項)。
    本肢では、賃貸借契約締結時にはBの抵当権のみが設定されていたため、賃借権を登記し、かつ、Bの同意を得て同意を登記すればBに対して賃借権を対抗できます。なお、賃貸借契約締結後に抵当権を設定したCに対しては登記及び同意を得なくても対抗できます。
    登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。
したがって正しい記述は[1]です。