担保物権(全30問中17問目)

No.17

法定地上権に関する次の1から4までの記述のうち、民法の規定、判例及び判決文によれば、誤っているものはどれか。
(判決文)
土地について1番抵当権が設定された当時、土地と地上建物の所有者が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合には、土地と地上建物を同一人が所有するに至った後に後順位抵当権が設定されたとしても、その後に抵当権が実行され、土地が競落されたことにより1番抵当権が消滅するときには、地上建物のための法定地上権は成立しないものと解するのが相当である。
平成21年試験 問7
  1. 土地及びその地上建物の所有者が同一である状態で、土地に1番抵当権が設定され、その実行により土地と地上建物の所有者が異なるに至ったときは、地上建物について法定地上権が成立する。
  2. 更地である土地の抵当権者が抵当権設定後に地上建物が建築されることを承認した場合であっても、土地の抵当権設定時に土地と所有者を同じくする地上建物が存在していない以上、地上建物について法定地上権は成立しない。
  3. 土地に1番抵当権が設定された当時、土地と地上建物の所有者が異なっていたとしても、2番抵当権設定時に土地と地上建物の所有者が同一人となれば、土地の抵当権の実行により土地と地上建物の所有者が異なるに至ったときは、地上建物について法定地上権が成立する。
  4. 土地の所有者が、当該土地の借地人から抵当権が設定されていない地上建物を購入した後、建物の所有権移転登記をする前に土地に抵当権を設定した場合、当該抵当権の実行により土地と地上建物の所有者が異なるに至ったときは、地上建物について法定地上権が成立する。

正解 3

問題難易度
肢111.7%
肢211.7%
肢363.5%
肢413.1%

解説

通常の建物の取引では、敷地の利用権を設定した上で譲渡が行われますが、競売の場合にはこのようなプロセスがないため「土地の利用権がない建物」が発生し得ます。土地の利用権がないことを理由に建物の収去を余儀なくされるのでは、このような建物を競売で買い受ける人も担保とする人もいなくなってしまうため、民法では、以下の要件をすべて満たしたときに法定地上権を与えることで手当をしています(民法388条)。
  1. 第1順位の抵当権の設定当時、土地上に建物があること
  2. 第1順位の抵当権の設定当時、土地の所有者と建物の所有者が同一であること
  3. 土地又は建物のどちらか一方に抵当権が設定されていること
  4. 抵当権の実行により、土地の所有者と建物の所有者が別人になったこと
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
  1. 正しい。最も基本的な法定地上権の成立です。第1順位の抵当権設定時に土地と建物の所有者が同じであり、その後抵当権の実行により、土地と建物の所有者が別になったので、建物のために法定地上権が成立します。
  2. 正しい。法定地上権の成立要件のひとつに「第1順位の抵当権の設定当時、土地上に建物があること」があります。1番抵当権の設定時に更地だったので法定地上権は成立しません(最判昭36.2.10)。
    土地に対する抵当権設定の当時、当該建物は未だ完成しておらず、しかも原判決認定の事情(原判決理由参照)に照らし更地としての評価に基き抵当権を設定したことが明らかであるときは、たとえ抵当権者において右建物の築造をあらかじめ承認した事実があつても、民法第三八八条の適用を認むべきではない。
    Aが乙建物を取り壊して更地にしてから甲土地に抵当権を設定登記し、その後にAが甲土地上に丙建物を建築していた場合、甲土地の抵当権が実行されたとしても、丙建物のために法定地上権は成立しない。H30-6-2
  3. [誤り]。本問の判決文が述べていることと逆です。法定地上権の成立要件のひとつに「第1順位の抵当権の設定当時、土地の所有者と建物の所有者が同一であること」があります。1番抵当権の設定時に所有者が別人だったので、その後同一人になったとしても法定地上権は成立しません(最判平2.1.22)。
    土地を目的とする一番抵当権設定当時土地と地上建物の所有者が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかつた場合には、土地と建物が同一人の所有に帰した後に後順位抵当権が設定されたとしても、抵当権の実行により一番抵当権が消滅するときは、法定地上権は成立しない。
  4. 正しい。本問の判決文では、土地と地上建物の所有者が同一人であることを要すると説明されていますが、登記までは要求されていません。1番抵当権の設定時に土地と建物が同一所有者であれば、所有権移転登記をしていなくても法定地上権は成立します(最判昭48.9.18)。
    土地およびその地上建物の所有者が建物の取得原因である譲受につき所有権移転登記を経由しないまま土地に対し抵当権を設定した場合であつても、法定地上権の成立を妨げない。
    Aが乙建物の登記をA名義に移転する前に甲土地に抵当権を設定登記していた場合、甲土地の抵当権が実行されたとしても、乙建物のために法定地上権は成立しない。H30-6-1
したがって誤っている記述は[3]です。