所有権・共有・占有権・用益物権(全32問中18問目)

No.18

Aが所有者として登記されている甲土地の売買契約に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
平成19年試験 問3
  1. Aと売買契約を締結したBが、平穏かつ公然と甲土地の占有を始め、善意無過失であれば、甲土地がAの土地ではなく第三者の土地であったとしても、Bは即時に所有権を取得することができる。
  2. Aと売買契約を締結したCが、登記を信頼して売買契約を行った場合、甲土地がAの土地ではなく第三者Dの土地であったとしても、Dの過失の有無にかかわらず、Cは所有権を取得することができる。
  3. Aと売買契約を締結して所有権を取得したEは、所有権の移転登記を備えていない場合であっても、正当な権原なく甲土地を占有しているFに対し、所有権を主張して甲土地の明渡しを請求することができる。
  4. Aを所有者とする甲土地につき、AがGとの間で10月1日に、Hとの間で10月10日に、それぞれ売買契約を締結した場合、G、H共に登記を備えていないときには、先に売買契約を締結したGがHに対して所有権を主張することができる。

正解 3

問題難易度
肢16.8%
肢214.5%
肢365.2%
肢413.5%

解説

  1. 誤り。動産には、取引行為により平穏かつ公然に引渡しを受けた善意無過失の者は、その動産の所有権を取得するという制度(即時取得)がありますが、不動産には即時取得の規定は適用されません(民法192条)。不動産の場合、占有により所有権を取得するには時効取得の完成を待つ必要があります(民法162条2項)。
    取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
    十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
    売買契約に基づいて土地の引渡しを受け、平穏に、かつ、公然と当該土地の占有を始めた買主は、当該土地が売主の所有物でなくても、売主が無権利者であることにつき善意で無過失であれば、即時に当該不動産の所有権を取得する。H26-3-1
  2. 誤り。本肢は「Dの過失の有無にかかわらず」としている点が誤りです。登記に公信力はないので、登記を信頼して取引したCは所有権を取得することはできないのが原則です。判例では、登記がA名義のままになっていることをDが長年放置しているなど、真の所有者Dに相当の過失があり転得者Cが善意であれば、権利外観法理の適用により登記を信頼して取引したCを保護されるとしていますが、Dに過失がなければCは所有権を取得することができません(最判昭45.9.22)。
    【参考】
    公信力とは、公示された内容が真実に反していてもこれを信用して取引した者は、公示された内容が真実であった場合と同様の権利が取得できる効力のことです。
    およそ、不動産の所有者が、真実その所有権を移転する意思がないのに、他人と通謀してその者に対する虚構の所有権移転登記を経由したときは、右所有者は、民法九四条二項により、登記名義人に右不動産の所有権を移転していないことをもつて善意の第三者に対抗することをえないが、不実の所有権移転登記の経由が所有者の不知の間に他人の専断によつてされた場合でも、所有者が右不実の登記のされていることを知りながら、これを存続せしめることを明示または黙示に承認していたときは、右九四条二項を類推適用し、所有者は、前記の場合と同じく、その後当該不動産について法律上利害関係を有するに至つた善意の第三者に対して、登記名義人が所有権を取得していないことをもつて対抗することをえないものと解するのが相当である。
  3. [正しい]。不法占拠者に対しては、登記がなくとも明渡しを請求することができます。不動産の物権は登記をしなければ第三者に対抗できませんが、正当な権限なく占有をしている者(不法占拠者)は、この第三者に当たらないためです(最判昭25.12.19)。
    不動産の不法占有者は、民法第一七七条にいう「第三者」には当らない。
    甲建物をDが不法占拠している場合、①ではBは甲建物の所有権移転登記を備えていなければ所有権をDに対抗できず、②ではBは甲建物につき賃借権の登記を備えていれば賃借権をDに対抗することができる。R3⑫-9-3
    Cが何らの権原なくこの建物を不法占有している場合、Bは、Cに対し、この建物の所有権を対抗でき、明渡しを請求できる。H16-3-1
  4. 誤り。G・Hともに、登記を備えていないので他方に対して所有権を主張することはできません。不動産の物権を第三者に対抗するためには登記が必要です。二重譲渡があった場合には、契約の先後ではなく先に登記をした方が権利を主張できます(民法177条)。
    不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
    甲土地を何らの権原なく不法占有しているCがいる場合、BがCに対して甲土地の所有権を主張して明渡請求をするには、甲土地の所有権移転登記を備えなければならない。R1-1-1
    ①も②も不動産に関する物権であり、登記を備えなければ第三者に対抗することができない。H29-10-4
    Aが甲土地をBに売却する前にCにも売却していた場合、Cは所有権移転登記を備えていなくても、Bに対して甲土地の所有権を主張することができる。H28-3-1
    Aが甲土地をFとGとに対して二重に譲渡してFが所有権移転登記を備えた場合に、AG間の売買契約の方がAF間の売買契約よりも先になされたことをGが立証できれば、Gは、登記がなくても、Fに対して自らが所有者であることを主張することができる。H24-6-3
    CもBから甲土地を購入しており、その売買契約書の日付とBA間の売買契約書の日付が同じである場合、登記がなくても、契約締結の時刻が早い方が所有権を主張することができる。H22-4-1
    CはBとの間で売買契約を締結して所有権移転登記をしたが、甲土地の真の所有者はAであって、Bが各種の書類を偽造して自らに登記を移していた場合、Aは所有者であることをCに対して主張できる。H20-2-1
    Cが、AB間の売買の事実を知らずにAから甲地を買い受け、所有権移転登記を得た場合、CはBに対して甲地の所有権を主張することができる。H15-3-1
したがって正しい記述は[3]です。