所有権・共有・占有権・用益物権(全32問中12問目)

No.12

甲土地の所有者Aが、他人が所有している土地を通行することに関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
平成25年試験 問3
  1. 甲土地が他の土地に囲まれて公道に通じない場合、Aは、公道に出るために甲土地を囲んでいる他の土地を自由に選んで通行できるわけではない。
  2. 甲土地が共有物分割によって公道に通じなくなった場合、Aは、公道に出るために、通行のための償金を支払うことなく、他の分割者の土地を通行することができる。
  3. 甲土地が公道に通じているか否かにかかわらず、他人が所有している土地を通行するために当該土地の所有者と賃貸借契約を締結した場合、Aは当該土地を通行することができる。
  4. 甲土地の隣接地の所有者が自らが使用するために当該隣接地内に通路を開設し、Aもその通路を利用し続けると、甲土地が公道に通じていない場合には、Aは隣接地に関して時効によって通行地役権を取得することがある。

正解 4

問題難易度
肢110.5%
肢212.9%
肢315.7%
肢460.9%

解説

  1. 正しい。ある土地が他の土地に囲まれて公道に通じない場合、公道に出るためにその土地を囲んでいる他の土地を通ることができます(民法210条1項)。この法律上当然に認められる通行権を「囲繞地(いにょうち)通行権」と言います。ただし、必要かつ最も損害が少ない部分を選んで通行しなければなりません(民法211条1項)。
    他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
    前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
    他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に出るためにその土地を囲んでいる他の土地を自由に選んで通行することができる。R5-2-4
    Aは公道に至るため甲土地を囲んでいる土地を通行する権利を有するところ、Aが自動車を所有していても、自動車による通行権が認められることはない。R2⑩-1-2
    複数の筆の他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を自由に選んで通行することができる。H21-4-2
  2. 正しい。土地が共有物分割によって公道に通じなくなった場合、公道に出るために、他の分割者の土地についてのみ通行する権利が認められます。このとき他の分割者に対して、通行のための償金を支払う必要はありません(民法213条1項)。
    分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
    甲土地が共有物の分割によって公道に通じない土地となっていた場合には、Aは公道に至るために他の分割者の所有地を、償金を支払うことなく通行することができる。R2⑩-1-1
    甲地が、A及びCの共有地の分割によって他の土地に囲まれて公道に通じない土地となったときには、Aは、Cが所有する分割後の残余地にしか通路を開設することができない。H13-3-3
  3. 正しい。賃貸借契約により囲んでいる土地を使用できる権利を設定すれば、契約内容に基づき他人の土地を通行することができます(民法601条)。囲繞地通行権では、必要かつ最も損害が少ない部分の通行しか認められませんが、賃貸借契約であれば契約内容次第で通行する部分を選べるので、囲繞地通行権があるときでも賃貸借契約をする場面はありえます。
    したがって、当該土地の所有者と賃貸借契約を締結したAは、甲土地が公道に通じているか否かにかかわらず、契約内容に基づき当該土地を通行することができます。
    賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
    AB間の契約は、①では諾成契約であり、②でも諾成契約である。H27-3-3
  4. [誤り]。地役権は、自分の土地の便益のために他人の土地を利用できる物権です。本問では甲土地の隣接地内に道路が開設され、それが甲土地の便益に供されているので、便益を提供する隣接地が承役地(しょうえきち)、便益を受ける甲土地が要役地(ようえきち)となります。
    地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識できるものに限り時効取得できます(民法283条)。しかし、時効取得するには、単に道路があり日常的に使っていたというだけでは足りず、その通路の開設が要役地の所有者(本問だとA)によってなされていなければ「継続」の要件を満たしません(最判昭33.2.14)。
    本肢では、道路の開設者は甲土地の隣接地(承役地)の所有者ですから、Aが地役権の時効取得をすることはできません。
    地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。
    民法第二八三条にいう「継続」の要件をみたすには、承役地たるべき土地の上に通路の開設があつただけでは足りず、その開設が要役地所有者によつてなされたことを要する。
    地役権は、継続的に行使されるもの、又は外形上認識することができるものに限り、時効取得することができる。R2⑫-9-1
    通行地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。H22-3-4
    Bが、契約で認められた部分ではない甲土地の部分を、継続かつ表現の形で、乙土地の通行の便益のために利用していた場合でも、契約で認められていない部分については、通行地役権を時効取得することはできない。H14-4-4
したがって誤っている記述は[4]です。