所有権・共有・占有権・用益物権(全32問中11問目)

No.11

占有に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
平成27年試験 問5
  1. 甲建物の所有者Aが、甲建物の隣家に居住し、甲建物の裏口を常に監視して第三者の侵入を制止していたとしても、甲建物に錠をかけてその鍵を所持しない限り、Aが甲建物を占有しているとは言えない。
  2. 乙土地の所有者の相続人Bが、乙土地上の建物に居住しているCに対して乙土地の明渡しを求めた場合、Cは占有者が占有物について行使する権利は適法であるとの推定規定を根拠として、明渡しを拒否することができる。
  3. 丙土地の占有を代理しているDは、丙土地の占有が第三者に妨害された場合には、第三者に対して占有保持の訴えを提起することができる。
  4. 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者及びその特定承継人に対して当然に提起することができる。

正解 3

問題難易度
肢19.2%
肢223.8%
肢357.8%
肢49.2%

解説

  1. 誤り。占有権が認められるためには、自己のためにする意思をもって所持していることが必要です(民法180条)。本件は実際に建物に居住していなくても占有の要件である「所持」を満たすかどうかが問われています。判例では、裏口に外部からの侵入を防ぐ何の措置を講じていなかったとしても、隣家に居住し、常に監視して容易に侵入を制止できるような状況であれば、占有が認められると判断しています(最判昭27.2.19)。
    占有権が認められるためには、自己のためにする意思をもって所持していることが必要です
    家屋の所有者が、その家屋の隣家に居住し、常に出入口を監視して容易に他人の侵入を制止できる状況にあるときは、所有者はその家屋を所持するものといえる。
  2. 誤り。占有権の効力として、占有者は占有物を行使する権利を適法に有すると推定される規定があります(民法188条)。推定規定とは、事実関係が不明確なときに一応はその事実が存在するとして扱うというものであり、別の事実が立証された場合には推定の効果は生じません。
    本件では乙土地の所有者がBであることはわかっているのですから、上記の推定規定を用いて明渡しを拒否することはできません。もし別に正当な権限がCにあるならば、それはCが立証せよということです(最判昭35.3.1)。
    占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。
    他人の不動産を占有する正権原があるとの主張については、その主張をする者に立証責任があると解すべきである。
  3. [正しい]。占有者には、①占有回収の訴え、②占有保持の訴え、③占有保全の訴えという3つの訴権があります。この訴えは、占有者のみならず、占有を代理している者も提起できます(民法197条)。よって、Dは妨害を行った第三者に対し占有保持の訴えを提起することができます。なお、占有保持の訴えとは、所有権で言う妨害排除請求権に相当します。
    占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。
  4. 誤り。占有回収の訴えは、占有を奪った者に対して提起することができますが、奪った者からその物を購入した者などその特定承継人に対しては提起することはできません。しかし、その特定承継人が侵奪の事実を知っていたときは占有回収の訴えを提起できます(民法200条)。したがって、当然に訴えを提起することができるのは占有を侵奪した者だけで、その特定承継人に対しては当然にはできません。
    占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
    2 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。
したがって正しい記述は[3]です。