条件・期間・時効(全17問中3問目)

No.3

AはBに対し、自己所有の甲土地を売却し、代金と引換えにBに甲土地を引き渡したが、その後にCに対しても甲土地を売却し、代金と引換えにCに甲土地の所有権登記を移転した。この場合におけるBによる甲土地の所有権の時効取得に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
令和4年試験 問10
  1. Bが甲土地をDに賃貸し、引き渡したときは、Bは甲土地の占有を失うので、甲土地の所有権を時効取得することはできない。
  2. Bが、時効の完成前に甲土地の占有をEに奪われたとしても、Eに対して占有回収の訴えを提起して占有を回復した場合には、Eに占有を奪われていた期間も時効期間に算入される。
  3. Bが、甲土地の引渡しを受けた時点で所有の意思を有していたとしても、AC間の売買及びCに対する登記の移転を知ったときは、その時点で所有の意思が認められなくなるので、Bは甲土地を時効により取得することはできない。
  4. Bが甲土地の所有権を時効取得した場合、Bは登記を備えなければ、その所有権を時効完成時において所有者であったCに対抗することはできない。

正解 2

問題難易度
肢18.5%
肢251.5%
肢313.2%
肢426.8%

解説

  1. 誤り。時効取得のための占有は、直接占有のみならず代理占有でも問題ありません。賃借人に貸しているという状況は、所有者として賃借人に土地や建物の占有を代理させていることになるため占有は継続します。
  2. [正しい]。占有を失っても、占有回収の訴えを提起したときには占有は継続するため、時効は中断しません(民法203条)。よって、Eに占有を奪われていた期間も時効期間に算入されます。
    占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。
  3. 誤り。所有の意思は、外形的・客観的に定められるべきものであり、占有者の内心の意思によって判定されるものではありません。所有の意思が否定されるためには、占有中に真の所有者であれば通常はとらない行動をとった・当然にとるべき行動をしなかったなどの事実や事情が証明される必要があります(最判昭58.3.24)。
    民法一八六条一項の所有の意思の推定は、占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかつたものと解される事情が証明されるときは、覆される。
  4. 誤り。CはBにとって時効完成前に登場した第三者になります。時効取得者は、時効完成前の第三者に対して、登記なくして所有権を主張することが可能です(最判昭41.11.22)。
    不動産の時効取得者は、取得時効の進行中に原権利者から当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した者に対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができる。
    AがCに対して甲土地を売却し、Cが所有権移転登記を備えた後にBの取得時効が完成した場合には、Bは登記を備えていなくても、甲土地の所有権の時効取得をCに対抗することができる。R5-6-ア
    第三者のなした登記後に時効が完成して不動産の所有権を取得した者は、当該第三者に対して、登記を備えなくても、時効取得をもって対抗することができる。R3⑫-6-3
    Bが甲土地の所有権移転登記を備えた後に甲土地につき取得時効が完成したFは、甲土地の所有権移転登記を備えていなくても、Bに対して甲土地の所有権を主張することができる。R1-1-4
    Aから甲土地を買い受けたCが所有権の移転登記を備えた後に、Bについて甲土地所有権の取得時効が完成した場合、Bは、Cに対し、登記がなくても甲土地の所有者であることを主張することができる。H27-4-3
    甲土地につき、時効により所有権を取得したBは、時効完成前にAから甲土地を購入して所有権移転登記を備えたCに対して、時効による所有権の取得を主張することができない。H24-6-1
    Cが時効により甲土地の所有権を取得した旨主張している場合、取得時効の進行中にBA間で売買契約及び所有権移転登記がなされ、その後に時効が完成しているときには、Cは登記がなくてもAに対して所有権を主張することができる。H22-4-3
したがって正しい記述は[2]です。