不法行為・事務管理(全16問中11問目)

No.11

不法行為による損害賠償に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
平成19年試験 問5
  1. 不法行為による損害賠償の支払債務は、催告を待たず、損害発生と同時に遅滞に陥るので、その時以降完済に至るまでの遅延損害金を支払わなければならない。
  2. 不法行為によって名誉を毀損された者の慰謝料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなかった場合でも、相続の対象となる。
  3. 加害者数人が、共同不法行為として民法第719条により各自連帯して損害賠償の責任を負う場合、その1人に対する履行の請求は、他の加害者に対してはその効力を有しない。
  4. 不法行為による損害賠償の請求権の消滅時効の期間は、権利を行使することができることとなった時から10年である。

正解 4

問題難易度
肢16.8%
肢27.8%
肢324.5%
肢460.9%

解説

  1. 正しい。不法行為による損害賠償の支払債務は、催告を待たず、損害発生と同時に履行遅滞に陥ることとなります(民法412条3項最判昭39.2.25)。
    よって、完済までの期間に応じた遅延損害金が発生します。
    債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
    不法行為に基づく損害賠償債務は、なんらの催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥るものと解すべきである。
    Aの損害賠償債務は、BからAへ履行の請求があった時から履行遅滞となり、Bは、その時以後の遅延損害金を請求することができる。H12-8-4
  2. 正しい。不法行為によって名誉を毀損された者は慰謝料請求権を取得します(民法710条)。被害者が生前に請求の意思を表明しなかった場合でも、一般債権と同じように相続の対象となります(最判昭42.11.1)。
    他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
    不法行為による慰藉料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、相続の対象となる。
    Cが即死であった場合には、Cには事故による精神的な損害が発生する余地がないので、AはCの相続人に対して慰謝料についての損害賠償責任を負わない。H24-9-2
    Aの加害行為が名誉毀損で、Bが法人であった場合、法人であるBには精神的損害は発生しないとしても、金銭評価が可能な無形の損害が発生した場合には、BはAに対して損害賠償請求をすることができる。H20-11-4
  3. 正しい。共同不法行為による債務は、加害者が連帯して損害を賠償する責任を負います(民法719条1項)。連帯債務では、連帯債務者の1人に対して生じた事由は、更改、相殺、混同を除いて他の債務者に対しても効力が生じませんから、その1人に対する履行の請求は、他の加害者に対しては効力を有しません(民法441条)。
    数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
    第四百三十八条、第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。
    Aは、Cに対して事故によって受けたCの損害の全額を賠償した。この場合、Aは、BとDの過失割合に従って、Dに対して求償権を行使することができる。H25-9-1
    事故によって損害を受けたCは、AとBに対して損害賠償を請求することはできるが、Dに対して損害賠償を請求することはできない。H25-9-3
    Aは、Eに対するBとDの加害割合が6対4である場合は、Eの損害全額の賠償請求に対して、損害の6割に相当する金額について賠償の支払をする責任を負う。H14-11-1
    不法行為がAの過失とCの過失による共同不法行為であった場合、Aの過失がCより軽微なときでも、Bは、Aに対して損害の全額について賠償を請求することができる。H12-8-2
  4. [誤り]。不法行為による損害賠償請求権は、原則として損害及び加害者を知った時から3年、または不法行為時から20年経過すると時効消滅します(民法724条)。本肢は「10年」としているので誤りです。
    不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
    一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
    二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
    本件事故について、AのBに対する不法行為責任が成立する場合、BのAに対する損害賠償請求権は、B又はBの法定代理人が損害又は加害者を知らないときでも、本件事故の時から20年間行使しないときには時効により消滅する。R3⑩-8-3
    人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しない場合、時効によって消滅する。R2⑫-1-4
    信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権は、買主が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効により消滅する。H28-9-1
    信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった売主に対する買主の損害賠償請求権は、損害を被っていることを買主が知らない場合でも、売買契約から10年間行使しないときは、時効により消滅する。H28-9-2
    CがBに対して本件建物の契約不適合に関して不法行為責任に基づく損害賠償を請求する場合、当該請求ができる期間は、Cが契約不適合の存在に気付いてから1年以内である。H26-6-3
    不法行為による損害賠償債務の不履行に基づく遅延損害金債権は、当該債権が発生した時から10年間行使しないことにより、時効によって消滅する。H26-8-2
    Dが、車の破損による損害賠償請求権を、損害及び加害者を知った時から3年間行使しなかったときは、この請求権は時効により消滅する。H17-11-4
    Bが、不法行為による損害と加害者を知った時から1年間、損害賠償請求権を行使しなければ、当該請求権は消滅時効により消滅する。H12-8-3
したがって誤っている記述は[4]です。