民法の規定及び判例(財産法) (全183問中60問目)

No.60

Aに雇用されているBが、勤務中にA所有の乗用車を運転し、営業活動のため得意先に向っている途中で交通事故を起こし、歩いていたCに危害を加えた場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
出典:平成24年試験 問9
  1. BのCに対する損害賠償義務が消滅時効にかかったとしても、AのCに対する損害賠償義務が当然に消滅するものではない。
  2. Cが即死であった場合には、Cには事故による精神的な損害が発生する余地がないので、AはCの相続人に対して慰謝料についての損害賠償責任を負わない。
  3. Aの使用者責任が認められてCに対して損害を賠償した場合には、AはBに対して求償することができるので、Bに資力があれば、最終的にはAはCに対して賠償した損害額の全額を常にBから回収することができる。
  4. Cが幼児である場合には、被害者側に過失があるときでも過失相殺が考慮されないので、AはCに発生した損害の全額を賠償しなければならない。

正解 1

解説

  1. [正しい]。Bの不法行為責任とAの使用者責任は不真正連帯債務です(大判昭12.06.30)。よって、Bの損害賠償義務が消滅時効にかかった場合でも、Aの損害賠償義務は当然に消滅することはありません(民法715条1項)。
    ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
  2. 誤り。被害者が即死の場合であっても、被害者が受けた精神的な苦痛に対する損害賠償請求権が発生します(民法710条)。慰謝料請求権は相続することができるので、BはCの相続人に対して慰謝料の損害賠償責任を負うことになります(最判昭42.11.1)。
    他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
    不法行為による慰藉料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、相続の対象となる。
  3. 誤り。AはBに求償を求めることができますが、判例では、被用者に対して求償できる範囲は「信義則上相当と認められる限度内」とされているため、常に全額を回収できるとは限りません(民法715条3項最判昭51.7.8)。
    前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
    (略)使用者は、信義則上、右損害のうち四分の一を限度として、被用者に対し、賠償及び求償を請求しうるにすぎない。
  4. 誤り。被害者本人であるCが幼児である場合であっても、被害者側(例えばCの親など)に過失があるときには過失相殺が考慮されます(民法722条2項最判昭34.11.26)。よって、Aは常に発生した損害の全額を賠償しなければならないとは限りません。
    被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
    二 幼児の生命を害された慰藉料を請求する父母の一方に、その事故の発生につき監督上の過失があるときは、父母の双方に民法第七二二条第二項の適用があるものと解すべきである。
したがって正しい記述は[1]です。